ニューズレター

第4号(2024年3月1日発行)

2023年度前期人文学研究所シンポジウム報告

「音楽分野の日中関係史を考える」開催報告
共同研究グループ「日中関係史」

開催日:2023年9月16日(土)

会場:みなとみらいキャンパス 11階(オンラインあり)

報告:

  1. 清末における唱歌の受容と『音楽学』(1905年)の出版」呂政慧(名古屋大学、D2年)
  2. 「1910~20年代の北京の音楽教育と中国人留学生」鄭暁麗(浙江音楽学院、専任講師)

司会:孫安石(神奈川大学)

コメンテーター:尾高暁子(東京芸大、講師)

 呂氏の報告は、清朝末期の中国湖北省師範留学生が編纂した音楽教科書『音楽学』(1905年)を取り上げ、近代における歌の越境をめぐる受容と変容の問題を論じるもので、(1)『音楽学』の出版情報から見る日本との関係、(2)『音楽学』の下編の唱歌から見た近代唱歌の受容関係、(3)『音楽学』の唱歌と参照した日本の唱歌の比較から見た異同について報告する内容であった。

呂政慧氏の報告資料

(呂政慧氏の報告資料より)

 鄭氏の報告は、台湾出身の柯政和が1911年からの日本留学をへて、1920 年代に入り北京の音楽界で教員、雑誌の発行、演奏会の設定など様々な活動を行った内容を、(1)日本留学の経験、(2)1920年代年代の北京音楽界、(3)北京師範大学での音楽教育活動、(4)⻄楽社・北京愛美楽社の創立と演奏会の開催、(5)『新楽潮』の創刊と『音楽雑誌』への寄稿、(6)中華楽社の設立と音楽出版、(7)中国在住の日本人・日本組織との関わりに分けて報告する内容であった。

鄭暁麗氏の報告資料

(鄭暁麗氏の報告資料より)

 コメンテーターの尾高氏を交えた質疑応答の時間では、中国での「ぴょんこ節」唱歌の受容について、歌詞を完全に入れ替えた唱歌が意味するものについて(以上、呂氏の報告)、台湾人の柯政和が北京で活躍したことの意味や外務省外交史料館所蔵の柯政和資料(以上、鄭氏の報告)について活発な意見交換があった。
 オンラインを併用した本研究会は対面参加13名+zoom参加22名の合計35名の参加があり、本学の教員、学生はもちろん、上海、北京、広島などの幅広い分野の専門家の参加を得ることができた。ご支援いただいた人文学研究所のみなさまに深く感謝申しあげます。

文責 孫 安石(日中関係史共同研究代表)

会場の写真1

会場の写真1

会場の写真2

会場の写真2

講演会報告

木川剛志氏(ドキュメンタリー監督・観光映像専門家・日本国際観光映像祭代表・和歌山大学観光学部教授)「観光映像からドキュメンタリーまで―Yokosuka1953横浜上映記念講演―」
国際日本学部准教授 崔 瑛

開催日:2023年11月16日(木)

会場:みなとみらいキャンパス 米田吉盛記念ホール

 木川剛志監督のドキュメンタリー作品「Yokosuka1953」の横浜での上映にあわせ、作品の背景となる横須賀・横浜の戦後の混乱期の状況や関連する人物の人生について説明がなされた。この説明は、観客の作品への理解を深め、好奇心を刺激する内容だった。また、木川氏が専門とする観光映像に関するセッションもあり、彼が代表を務める日本国際観光映像祭についての紹介と共に、観光映像の評価基準についての解説が行われた。実際の作品例を紹介し、参加者からは好意的なコメントが寄せられた。
 質疑応答のセクションでは、「Yokosuka1953」の主人公と同じ年代の横須賀市民から映画に関する感想が述べられ、映画や講演会への市民の反応を把握する貴重な機会となった。さらに、読売新聞社やタウンニュースの記者も出席し、記者らからの質疑も受けることができた。11月18日土曜日の読売新聞朝刊の地域欄記事として本学での講演会が紹介された。また、当日出席したタウンニュース記者によってYokosuka1953の上映に関する記事が紹介された。映画への深い理解を促すだけでなく、地域コミュニティとのつながりを強化する機会となった。

ドキュメンタリー映画 Yokosuka1953 ~GIベビー、ルーツ探る旅~
【タウンニュース 横須賀版】

講演会場の様子

会場の様子

講演会報告

トリスタン・グルーノ氏(名古屋大学人文学研究科 准教授)「Tokyo Station and the Building of Japanese Imperial Urban Space」
国際日本学部准教授 ティネッロ・マルコ

開催日:2023年11月22日(水)

会場:みなとみらいキャンパス 5030室(オンラインあり)

 Tokyo Station opened to great fanfare in 1914 with a ceremony that doubled as a celebration of the expanding empire. Tokyo mayor Sakatani Yoshirō applauded the station building rising before them, proclaiming that it “tastefully prostrates itself before the solemn nobility of the nearby imperial palace” with a grandeur that made it the “pride of the imperial capital (Teito).” Tokyo Station, then, capped a space of both emperor and empire at the heart of the city, mediating Japan’s aspirations as a first-class world power as much as Tokyo’s status as the metropolis of an overseas empire.

 Like Tokyo Station itself, Tokyo’s reputation as the “Imperial Capital” took several decades to emerge. This talk revisited the contested planning of Tokyo Station to retrace how popular conceptions of both the station and the city changed over the Meiji Period and clarified how the evolving design of Tokyo Station manifested not only an emerging consensus about Tokyo’s status as the imperial capital, but also the incipient Japanese nation and empire in the Meiji Period.

講演会報告

見城悌治氏(千葉大学 国際教養学部教授)「川島真氏、孫安石氏に対するコメントと報告」
外国語学部教授 孫 安石

開催日:2023年12月9日(土)

会場:みなとみらいキャンパス 米田吉盛記念ホール

 2023年12⽉9⽇(土)に開催された「関東大震災の研究についての報告&討論会―非文字資料と歴史」は、非文字資料研究センターの研究班と人文学研究所の「日中関係史研究班」が共同で開催した講演会で、第2部では、報告1「 関東⼤震災における中国⼈虐殺事件―国際労働⼒移動の観点から⾒る」川島真(東京⼤学)、報告2「関東⼤震災と中国⼈留学⽣」孫安⽯(神奈川大学)、報告3「川島真氏、孫安石氏に対するコメントと報告」⾒城悌治(千葉⼤学)が行われた。とくに、見城報告では、(1)自然災害をめぐる日本と中国の二国間(または、国際間)の間では、軋轢と拮抗だけではなく、「共助」という場面があったのではないか、(2)同じ脈絡で、日華学会の中国人留学生支援なども1920、30年代という時代的な制約のなかで、支援と「管理」という両側面があったことが評価されても良いのではないか、という論点が提示され、活発な討論となった。

調査研究報告

地方における現代美術の調査(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、豊島美術館、道後温泉地区)
国際日本学部教授 松本 和也

 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館では企画展「中園孔二 ソウルメイト」展を閲覧・調査した。瀬戸内海沖で消息不明となった夭折の画家・中園ゆかりの地で、複数のレイヤーから構成された絵画の多彩な表層にくわえ、それを手がかりとした向こう側の「何か」とこちら側の画家のイメージを感じ取ることができた。豊島美術館では、土地の歴史、風土と一体化した美術館建築までのプロセス、立地を如実に体感しながら、実際に体験しなければわからないと言われる、一作品だけのための美術館の内実にふれることができた。建築家・西沢立衛による天井に2つの大きな穴をうがった水滴のような流線型の空間内に、アーティスト・内藤礼による《母型》が展示されている。見上げれば、天井からは借景よろしく空と山が見え、足下では、わきでる水が微細な動きを積み重ねて「泉」をなしていく。独特な時間の流れが、島の自然を取り込みながら成立していた。道後温泉地区では「道後アート2023」として、街の雰囲気にあわせた多彩なインスタレーションが展開されていた。

猪熊弦一郎現代美術館外観

猪熊弦一郎現代美術館

豊島美術館外観

豊島美術館

道後アート2023

道後アート2023

調査研究報告

大阪と京都の出張報告
国際日本学部教授 尹 亭仁

 12月1日(金)~3日(日)の2泊3日、大阪と京都に出張した。韓国語の授業で取り組んでいる「参加誘導型視覚教材」における韓国語の言語景観を充実させ、学生たちに「多言語表示サービス施設」の情報をより具体的に提供する必要があったからである。
 初日の12月1日は新大阪駅および大阪駅周辺で多言語表示の調査を行なった。新幹線が走る新大阪駅より在来線の大阪駅周辺に韓国語表示が多く、観光に来ている韓国人も多かった。2023年現在、日本を訪れる訪日外客は韓国人が最も多いことを実感した。
 JRで大阪駅から鶴橋駅まで移動したが、電車の中の電光掲示板に多言語表示が流れていた。10年ぶりに訪れた鶴橋には比べ物にならないほど韓国料理屋が増えていたが、韓国料理名が韓国語で提示される店よりカタカナで提示される店が多かった(図1)。ある店のオーナーに聞いたところ、コロナが明けてから、訪れるお客さんが増え、特に週末は混むほどであると答えた。平日であるにも関わらず、中年の女性客が多かった。
 大阪歴史博物館の場合、今まで見てきた多くの「多言語表示サービス施設」と違って韓国語が中国語より先に表示されていた(図2・図3)。ところどころ、日・英・中・韓の4言語表示も見られたが、多くの表示に韓国語が先である特徴が見られ、筆者が主張している「近隣性」を確かめることができた。何より、全体的に韓国語表示が充実していたので、学生たちの野外学習地としては「優良多言語表示サービス施設」と言える。大阪城にも多くの韓国語サービスが見られた。

大阪鶴橋

図1 大阪鶴橋

大阪歴史博物館の韓国語

図2・図3 大阪歴史博物館の韓国語

大阪城の韓国語

図4 大阪城の韓国語

 2日目には京都駅周辺の調査をしてから、京都で最も混むと言われる清水寺を訪れ、京都のオーバーツーリズムの現状を目にした(図5)。韓国語と中国語は案内と禁止表示に一部見られた。

図5 清水寺とオーバーツーリズム

図5 清水寺とオーバーツーリズム

 京都国立博物館では多くの作品の解説に多言語サービスが提供されていたが、撮影禁止であった。韓国語の翻訳のレベルは高かったが、直訳による誤訳も目に付いた(図6・図7・図8)。

 図6・7・8 京都国立博物館の多言語表示と韓国語

図6・7・8 京都国立博物館の多言語表示と韓国語

 3日目は本学との比較のため、大阪大学豊中キャンパスを訪れた。英語表示は見られたが、韓国語と中国語の表示はなかったため、その理由を確かめる必要があると考えた(図9)。その後訪れた阪急デパートでは横浜のデパートでは見たことのない充実した多言語表示を見ることができた(図10・図11)。特にフロアーガイドは韓国語の授業でも活用できるようなものであったため、資料として韓国語の教員同士で共有することにした。今回の大阪・京都の調査資料に基づいて首都圏の多言語サービスと比較を試みたい。

図9 大阪大学の2言語表示

図9 大阪大学の2言語表示 

阪急デパートの多言語表示と韓国語

図10・図11 阪急デパートの多言語表示と韓国語

第3号(2023年9月1日発行)

講演会報告

櫻井良樹氏(麗澤大学)「宇都宮太郎関係文書の中国人陸軍留学生関係資料について」
共同研究グループ「日中関係史」

開催日:2023年2月4日(土)

会場:神奈川大学MMキャンパス 200032室(オンライン配信)

 櫻井良樹氏の報告は、国会図書館憲政資料室で公開(2022年6月) が始まった宇都宮太郎関係文書の概要について紹介するものであった。特に、(1)宇都宮の海外視察、(2)清国陸軍留学生招聘の経緯、(3)留学生受け入れの中止と応聘将校派遣縮小問題、(4)『支那陸軍学生教育史』編纂と振武義会・振武資金と宇都宮日記・文書・書簡との関連について詳細な説明がなされた。その他に、川上操六(成城学校長)〔学生監督上の諸注意〕明治31年、福建陸軍武備学堂景況、明治37年1月、〔朝鮮人留学生の学費及人名簿控〕明治31年12月、「清韓応聘武(文)官一覧表 明治四十二年十月上旬調 参謀本部 第二部」、 「同文学院在学中ノ支那学生ヲ陸軍士官学校ニ入学セシムル件ニ付監督周斌ニ注意事項」などの資料が保管されているという。

講演会報告

西本雅実氏(中国新聞元記者)「広島で被爆した中国人留学生について」
共同研究グループ「日中関係史」

開催日:2023年4月22日(土)

会場:神奈川大学MMキャンパス 200032室(オンライン配信)

 西本雅実氏の報告は、日中の歴史研究において埋もれた広島で被爆した中国人留学生の実態について紹介する内容であった。西本氏の指摘によれば、『広島原爆戦災誌』(広島市1971年発行)第1巻に広島で被爆した中国人は、「1945年の時点で14人が数えられる」、という記載があり、『生死の火』(広島大1975年発行)には、被爆した中国人「留学生は三七名を超えていた」とし、旧満州国出身で原爆死3人の名前を記載していることにふれ、現時点で合計17名の中国人留学生が確認できることが報告された。西本氏の調査などの影響もあり、広島大は2023年5月末、大学の「原爆死没者名簿」に未記載の中国人留学生の名前を追加することを決めるとともに、被爆して現在までに死没が分かった留学生を広島市の「死没者名簿」に掲載するよう市に申請した、という。

講演会報告

トーマス・マッコーリ氏「Composition under constraint: Gender-based approaches to Topic in Eikyū hyakushu」
共同研究グループ「国際日本研究グループ」

開催日:2023年5月24日(水)

会場:みなとみらいキャンパス 4020号室(オンライン配信)

 今回の講演ではデジタル・ヒューマニティーズ(デジタル人文学)のアプローチと和歌を結びつけました。トーマス・マッコーリ氏が永久百首(永久四年百首、作成年月日1117年1月24日)を紹介してから、その歌とジェンダーに焦点を当てました。主に、女性歌人が詠んだ歌と男性歌人が詠んだ歌の違いを把握するため、テキスト分析ソフトを使って、何百もの歌をテーマに沿って分析し、違いがあるかどうかを調べました。残念ながら、この分析では有意な差は見られませんでした。マッコーリ氏は、これは和歌が非常に定型的な方法で書かれ、男女を問わずすべての歌人が規範に従う傾向があるからだと考えています。

調査研究報告

山口県周防大島の起業家教育の実践事例
国際日本学部准教授 崔 瑛

 2023年2月11日から12日までの2日間、山口県南東部に位置する周防大島町の株式会社ジブンノオトを訪問した。周防大島は、1963年にハワイ州カウアイ島と姉妹縁組を締結しており、多くのハワイ移民を輩出したことで、「瀬戸内のハワイ」といわれる。また、周防大島には、「瀬戸内ジャムズガーデン」のような島ならではの魅力を活かした個性的な企業が複数存在する。
 今回のフィールドワークでは、周防大島出身者であり、Uターンしてから島内でフリーペーパーの発行や起業家教育プログラムの企画・実践に取り組んできた起業家大野圭司氏(株式会社ジブンノオト代表)をインタビューした。島で起業家教育をはじめたきっかけや今まで取り組んできた具体的な実践事例、会社の運営状況について把握した。大野氏は、今まで島内の中学校や県内の高等学校にて、総合的な学習の時間を使って、オリジナルの起業教育を長年実践してきており、教育を受けた生徒らの反応等を細かく把握し、資料として集めていた。大野氏とのインタビューでは、起業家教育後の効果検証の方法論について、議論することができた。
 また、大野氏と協力し、島内で様々な教育コースを作り、実践してきた3人の教育関係者らとも周防大島での起業留学の現状と今後の方向性について議論した。今回のフィールドワークでは、周防大島における起業家教育の現場、教育のための宿泊施設を視察し、島の教育実践者らと、お互いの考えを共有する時間を過ごすことができた。

訪問した教育研修施設

訪問した教育研修施設

調査研究報告

静岡県舞台芸術センター、静岡県立美術館調査研究報告
国際日本学部教授 松本 和也

 いわゆる日本の「近代化」は、年表で示されるような出来事によって一朝一夕に変化するばかりでなく、こと、文化領域においてはそれぞれのジャンルにおいて、個別具体的な西洋の文物の移入や、西洋で学んできた帰朝者を軸に、徐々に「近代化」が進んできた。
 今回の調査においては、演劇と絵画の領域において「近代化」が一段階進んだ明治末年の動向を検討するために、近代劇および日本画に関わる舞台作品・展覧会を調査した。
 3月11日には、静岡芸術劇場において、公益財団法人静岡県舞台芸術センターによる演劇作品『人形の家』(演出:宮城聰、作:ヘンリック・イプセン、訳:毛利三彌(論創社版))を観劇した。イプセン劇は、近代日本演劇史上、たいへん重要な作品であるばかりでなく、文学(者)をはじめ、他ジャンルにも大きな影響を与えたものである。当初は、いわゆる「演劇」としてではなく、まずは「読む戯曲」として上演され、それを観客が「近代劇」として受けとめていた。日本での初演(1911年)からすでに100年以上がたって、当初『人形の家』がもっていた革新性は、わかりにくくなった面もあるものの、今回の上演では「女性の自立」というテーマに限らず、人間が「自我」をもって生きることの困難と意義とが端正な上演によって示され、むしろ現代にも通じる『人形の家』の普遍性も表現されていたように映じた。
 3月12日には、静岡県立美術館において、企画展「近代の誘惑 日本画」を閲覧した。洋画移入後の「日本画」について、明治から昭和の日本画が展示されており、特に明治末年~大正期の作品を、同時期の日本の洋画を想定・比較しながら、西洋の影響をはかりながら検討した。

Fig1:静岡芸術劇場

Fig1:静岡芸術劇場

Fig2:静岡県立美術館

Fig2:静岡県立美術館

調査研究報告

ハワイでの言語景観に関する調査
国際日本学部教授 菊地 恵太

 2023年3月31日にハワイ州ホノルル市において調査を行った。空路にて同日午前中にダニエルKイノウエ空港に到着し、まずは同市最大のアラモアナショッピングセンターまで市バスで移動し、多言語による言語景観に関しての調査を進めた。空港やバス停などの公共交通機関では多言語表記が多いのだが、地元の人向けの商業施設の中ではどうであろうかという点に今回は着目し、多くの観光客が多いアラモアナショッピングセンターから徒歩でもほど近いドン・キホーテ カヘカ店へと足を延ばしてみた。
 なお、この店舗は2006年までダイエーだったが、経営不振でドン・キホーテとなった場所であり、筆者も2019年から2020年までの在外研究期間中、よく訪れていた。まず、写真1は2020年初頭に撮った入り口付近の写真である。この写真から見てわかるように2020年には入り口付近のハワイ土産のコーナーがあるが、Hawaiian-Souvenirと〇で囲ってある箇所に注目しても日本語表記は見当たらない。右上にBuyer's specialsとお店が勧めるお買い得商品のコーナーもあるが、すべて英語表記である。

ドン・キホーテカヘカ店入口の様子

写真1

 そのBuyer's specialsのサインがあった全く同じ場所に何が置いてあるかを今回は着目し、まず調査を始めた。写真2と3をご覧いただきたい。その場所にはなぜか「千万両」と漢字で書かれた小判と思われるものを抱えた猫のTシャツと「柴犬」と漢字で書かれた犬のTシャツが置いてあった。言うまでもなくこれらは日本語のわかる日系人向けの商品であり、日本人観光客向けではない。

「千万両」と漢字で書かれた小判と思われるものを抱えた猫のTシャツと「柴犬」と漢字で書かれた犬のTシャツ

写真2

「千万両」と漢字で書かれた小判と思われるものを抱えた猫のTシャツと英語表記の値札

写真3

 写真4をご覧いただきたい。こちらは、前回のHawaiian-Souvenirの表記がどのようになっているかを示したものだが、ハワイ土産と日本語併記になっている。またハワイ土産の定番のマカデミアナッツチョコレートに関してもハワイアンホーストチョコレートとカタカナで併記されていることに気が付いた。写真1と比べると右上の白い壁の部分であるが、その部分を暖色系の壁紙を施し、ドン・キホーテのマスコットであるドンペンを使い、にぎやかな雰囲気を出していた。

前回のHawaiian-Souvenirの表記

写真4

 一方、写真5と6を見ていただくとわかるようにキリン一番搾りとして国内では売られている現地の人向けのビールに関してはすべて英語表記であった。日本国内では、ビールの味や泡に関しての宣伝文句がよく聞かれる気がするが、こちらのPOP広告ではChoose fortuneというサインと共に春だからであろうか、桜やピンク系の提灯で商品を目立たせていた。こちらは言うまでもなく日本人観光客向けではなく、現地の人向けであることがこうした表記からもよくわかる。ちなみに現地の日系人の友人に聞くとICHIBANはNo.1を表すことはよく知られており、運のよいといった宣伝文句として使われたのだろう。

キリン一番搾りの陳列写真

写真5

商品を目立たせる桜の飾り

写真6

 日本語、英語が購買層によって巧みに使われている同店は非常に興味深く、今後日本人観光客が戻ってきた後にどれほど日本語と英語表記の使用が変わるのかをまた調査したい。

調査研究報告

コクヨ梅田ショールーム調査研究報告
人間科学部教授 衣笠 竜太

 2023年7月12日に大阪商工会議所主催の「未来のウェルネス実装ネットワーキング」に参加した。大阪商工会議所によれば、本ネットワーキングは、130社・300人以上が参加していた模様である。本ネットワーキングは2025年大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオン」への展示出展に向けた一連の取り組みの一つとして位置づけられ、ウェルネス関連プロダクトの実装シーンを探す企業と、空間の付加価値を高めるためにウエルネスの要素を取り込もうとする企業、さらにウェルネス関連プロダクトを取り入れてビジネスの拡張を目指す企業の3者が出会うイベントであった。私は現在、筋電センサーの開発を進めているが、親和性のありそうな脳波計を開発している企業、心の可視化に挑む企業、加速度センサーを用いて歩行分析を行っている企業の担当者と、想定している顧客とペイン、市場性、ビジネスモデル、マネタイズ、差別化、マーケティング戦略などについてディスカッションすることができた。