ニューズレター

第7号(2026年3月発行)

調査研究報告

日中韓の漢語動詞の資料集に関する意見交換および言語景観の資料収集
国際日本学部教授 尹 亭仁

実施日: 2026年1月23日~25日
調査地: 上海:虹橋・浦東空港・魯迅公園・尹奉吉記念館・世界文豪広場・豫園・上海書城など

 来年度出版予定の『日韓・韓日漢語動詞7000語の対照表』の原稿を国外研究協力者と共有、ならびに今後刊行を計画している『日中韓漢語動詞7000語の対照表』について意見交換をした。
 行きに利用した上海虹橋空港には、北京首都空港と違い、中国語と英語に加えて、日本語と韓国語の多言語表示が見られた(写真1・写真2・写真3)。帰りの浦東空港は同じ国際空港でありながら中国語と英語のみであった(写真4)。

写真1 上海虹橋空港の多言語表示1

写真1 上海虹橋空港の多言語表示1

写真2 上海虹橋空港の多言語表示2

写真2 上海虹橋空港の多言語表示2

写真3 上海虹橋空港の多言語表示3

写真3 上海虹橋空港の多言語表示3

写真4 浦東空港の2言語表示

写真4 浦東空港の2言語表示

 魯迅公園の中にある「尹奉吉記念館(梅園)」では中国語に対応する多くの韓国語や関連する写真が収められた(写真5・写真6・写真7)。説明に用いられた韓国語の基本形の用法が中国語につられてか、不自然な表現になっていた。これは日本語からの翻訳からも見られる問題で、論文のテーマの示唆を得た。

写真5 梅園の多言語表示

写真5 梅園の多言語表示

写真6 梅園の多言語表示

写真6 梅園の多言語表示

写真7 梅園の2言語表示

写真7 梅園の2言語表示

 魯迅公園内にある「世界文豪広場」(写真8)にはシェイクスピア(写真9)とトルストイ(写真10)をはじめ、11名の文豪の銅像があった。ハンガリーの詩人ペテーフィの胸像(写真11)も設置されていた。この写真は授業の役に立つ資料である。

写真8 世界文豪広場

写真8 世界文豪広場

写真9~11 3人の文豪

写真9~11 3人の文豪

 本屋の「上海書城」で中韓辞典と中英辞典を購入した。現在執筆中の論文の参考資料である。
 日本と韓国の観光案内所には置いてある多言語表示のパンフレットを求め、「上海外滩旅游综合服务中心」(写真12)を訪れたが、中国語のパンフレットのみが置いてあった(写真13)。

写真12 上海外滩旅游综合服务中心

写真12 上海外滩旅游综合服务中心

写真13 中国語のみのパンフレット

写真13 中国語のみのパンフレット

 ホテルの入口(写真14)やお店のカード決済の案内(写真15)および大型ショッピングモールのフロアーガイドに中・英・日・韓の4言語表示が見られた。写真15にタイ語やインドネシア語が並んでいる。上海にも観光が言語景観に多少は影響を及ぼしているようである。上海での今後の多言語表示の展開が楽しみである。

写真14 ホテルの多言語表示

写真14 ホテルの多言語表示

写真15 カード決済の多言語案内

写真15 カード決済の多言語案内

調査研究報告

洋画にみる海外の影響/日本性
国際日本学部教授 松本 和也

実施日: 2026年1月20日~22日
調査地: 神戸市立小磯記念美術館、神戸市立博物館、下瀬美術館、広島県立美術館、ひろしま美術館

 今回の出張目的は、小磯良平(日本の近代洋画)を軸として、遡っては、明治以降日本で受容された印象派、ポスト印象派、時代を下っては現代美術に至るまで、海外からの影響やその中における日本の独自性といった観点から、それぞれの作品、展覧会を1つの地図に収めるようにして、日本の近現代美術を捉え直すことにある。その端緒として、一日めには、神戸市立小磯記念美術館にて「特別展 小磯良平展 幻の名作《日本髪の娘》」を閲覧し、《日本髪の娘》をはじめとした日本洋画の高い技術を確認した。

写真1 神戸市立小磯記念美術館

写真1 神戸市立小磯記念美術館

 二日目は、神戸市博物館で「大ゴッホ」展を閲覧し、ゴッホはもとよりレラー=ミュラー美術館の印象派コレクションも含め、洋画黎明期に大きな影響を与えた作家・作品、それぞれの特徴を見渡すことができた。その後、下瀬美術館にて「新コレクション展」を閲覧し、日本の古層に注目した小松美羽、宮島での滞在制作を展示したサム・フォールズの作品によって、日本内/外からみた「日本性」があらわれた現代美術の達成を確認した。

写真2 神戸市立博物館

写真2 神戸市立博物館

写真3 下瀬美術館

写真3 下瀬美術館

 三日目は、広島県立美術館で「木村伊兵衛 写真に生きる」を閲覧し、写真にメディアを移しながら、切り取られた「日本」のあり方を検証した。そして、最後に、この調査の関心を串刺しするようなひろしま美術館の「特別展 白の魔法」を閲覧した。同展は、モネから横山大観まで「白」を軸に作品を並べたキュレーションの妙が光る展覧会だが、それは洋の東西をまたいで、日本の洋画に関わったさまざまな隣接領域をも横断するような切り口であった。もちろん、これは「白」ゆえ可能になった展覧会ではあるが、別の切り口も想像させ、それらによって、日本の洋画の地図が(実現しなかった可能性とあわせて)照らし出されたように感じられた。

写真4 広島県立美術館

写真4 広島県立美術館

写真5 ひろしま美術館

写真5 ひろしま美術館

調査研究報告

九州国立博物館・太宰府天満宮の多言語表示
国際日本学部教授 尹 亭仁

実施日: 2025年12月12日~14日
調査地: 九州国立博物館、大宰府天満宮

 日本の多言語表示に見られる韓国語の表記上・翻訳上の問題点や言語景観がもたらすホスピタリティをより具体的に捉えるため、九州国立博物館、太宰府天満宮、福岡市博物館で調査を行なった。今年度、調査で回った4つの国立博物館(東京・奈良・京都・九州、開館順)の中では九州博物館の多言語表示(写真1・写真2)が最も進んでおり、細部にわたって韓国語の表示が見られ、高いホスピタリティを感じた。

写真1 縄文人、海へ

写真1 縄文人、海へ

写真2 石刃

写真2 石刃

 現地では比較的韓国語多く聞こえ、韓国からの観光客が多いことを実感した。パンフレットも東京国立博物館(写真3)と同様に、日英中台韓の5言語に加えフランス語・ドイツ語・スペイン語のものも置いてあった(写真4)。

写真3 東京国立博物館のパンフレット

写真3 東京国立博物館のパンフレット

写真4 九州国立博物館のパンフレット

写真4 九州国立博物館のパンフレット

 2015年に開館10周年を記念して刊行された図録の『九州国立博物館名品五十選』の韓国語版(写真5)・中国語版(写真6)・英語版(写真7)を購入し、翻訳本を対象に、翻訳の精度のみならず、大きい問題の1つである日本の固有名詞の表記(日本の漢語を韓国語読みの漢語で表記するか日本語の読みをハングルで表記するか)がどうなっているかについても考察し、授業と論文で取り上げる予定である。

写真5 日韓版

写真5 日韓版

写真6 日中版

写真6 日中版

写真7 日英版

写真7 日英版

 福岡市博物館では、日本語だけでなく、英語、韓国語、簡単字中国語、繫体字中国語がセットになったパンフレットが置いてあった。館内の説明や案内も5言語になっていた(写真8・写真9)。韓国語が2種類の中国語より上に表示されているのが特徴と言える。太宰府天満宮の参道エリアの説明にも韓国語と中国語があふれていた(写真10)。

写真8 福岡市博物館

写真8・写真9 福岡市博物館

写真10 天満宮の民間表示

写真10 天満宮の民間表示

調査研究報告

国際コミュニケーションにおける真の言語権を求めて
外国語学部助教 源 邦彦

実施日: 2025年11月29日
調査地: 国立国語研究所主催 定住外国人のよみかき研究プロジェクト2025年度研究集会

 今回は、福祉言語学(welfare linguistics)と呼ばれる日本を発祥とする社会言語学の一分野にかかわるテーマの講演会に参加した。講演は日本自立生活センターに勤務し、識字研究、障害学を専門とするあべ・やすし氏によるものであった。氏は大学生のころから障碍者のために漢字を障害としてとらえ、その使用制限を主張してきた人物である。あべ氏の議論を以下端的にまとめる。
 社会一般ではかつては「すべての人に文字を」というスローガンが幅を利かせていた。しかしながら、ことばのかたちに人を合わる発想には限界があり、弱視者、失読症者、知的障碍者にとっては限界のあるスローガンである。これはいわゆる健常者による一方的なディスコースにすぎない。これからは「識字率」から「読書権の保障率」へと、すなわち、「すべての人に文字を」から「すべての人に情報をやりとりする権利を保障」へと現支配集団のディスコースを見直す時期が来ているといえよう。日本の文字文化を再構築し、ことばのかたちを人に合わせることへと発想を転換させることである。具体的には、文字に加え、音声<epubのような電子書籍ファイルだとうまく機能する>、動画<手話で利用可>、ピクトグラム、フラッシュライト、振動、サイン音などあらゆる伝達手段を駆使し、すべての人への情報提供を保障しなければならない。
 筆者は、この「すべての人に情報をやりとりする権利を保障」することを英語教育と英語使用にも適用できるものと考えている。日本の英語教育や英語使用において現在も権力をふるっている「方言(変種)」はアメリカ英語とイギリス英語である。とりわけ、英語教育におけるアメリカ英語の覇権は著しい。しかしながら、われわれ日本語を母語とする人々が将来的に英語でやりとりをする80%ぐらいがほかのアジア諸国の人々であるという試算がある。ほとんどの日本人にとって英語は典型的な英語諸国(米、英、豪、加など)の人々を相手に使用するのではなく、英語以外の言語を第一言語とする人々を相手に交流するための言語なのである。そこで「すべての人に情報をやりとりする権利を保障」する英語コミュニケーションとは何かを考える必要がある。まずは、研究(cf. Smith & Rafiqzad 1979)ですでに実証されているように最も理解しがたい英語(とくにアメリカ英語)をあえて用いることで自身の英語にプレミア感を付与し自身を至高の英語使用者・英語教育者として位置づける「ネイティブ」英語使用者自身が理解の困難な発音の仕方を改めるべきであろう。そして、ALTなど外国人英語講師のほとんどを英語以外の言語を第一言語とする教員に配置転換する必要があろう。後者の人々は第二言語として英語を学ぶことの困難やコミュニケーション上の難点を理解しており英語教育上も英語使用上も意義のある英語交流を可能にするであろう。最後に、英語使用者を序列化する、また単一言語主義・言語純粋主義に基づく「ネイティブ」「ノンネイティブ」という非科学的な二元論から解放されることである。この二元論によって「ノンネイティブ」が使用する英語に現れる「違い」や「変化」は、短絡的に「間違い」や「中間言語」として位置づけられているのである。このディスコースから解放されることこそが国際コミュニケーションのための英語を使用する権利の保障を可能とするのである。

Smith, Larry E. and Khalilullah Rafiqzad. 1979. “English for Cross-Cultural Communication: The Question of Intelligibility.”TESOL Quarterly 13 (3): 371-380.

調査研究報告

人間中心設計推進機構(HCD-Net)開催の写真KJ法ワークショップ参加(宮古島)
国際日本学部准教授 崔 瑛

実施日: 2025年11月26日~29日
調査地: 宮古島平良港ターミナルビル大研修室

宮古島で開催の人間中心設計推進機構(HCD-Net)開催の写真KJ法ワークショップに参加した。三日間の現地調査および現地での地域住民との交流を通して、現地状況を把握し、観光バブルといわれる現地の課題に対する提案内容をまとめ、観光協会に伝えた。なお、写真KJ法の最新の運用状況についても議論できた。

調査研究報告

沖縄大学シンポジウム「先端技術と語学教育の未来―AI・メタバース・VR―」に出席して
外国語学部教授 鈴木 慶夏

実施日: 2025年10月31日~11月3日
調査地: 沖縄大学

 11月に開催された2025年沖縄大学シンポジウム「先端技術と語学教育の未来―AI・メタバース・VR―」に出席した。当日は、田邉鉄氏(北海道大学教授)による研究報告「AI時代の中国語スキルとは」、大木充氏(京都大学名誉教授)による特別講演「全部見せます!AIを用いて教科書を作成、AIを用いてタスクを作成」、渡邉ゆきこ氏(沖縄大学特任教授)による実践報告「メタバースでAIエージェント/AIアバターに学ぶ中国語」を視聴した。そして、大前智美氏(大阪大学准教授)によるワークショップ「創る学び、伝える力:外国語教育×デジタル表現」と小渡悟氏(沖縄国際大学准教授)によるVR体験会「VRの可能性を体感しよう」に参加した。
 どの報告・講演、ワークショップも、語学教育の現状を俯瞰し、どのような課題解決が求められるかについてAIやメタバース、VRの観点から説得的に述べたものである。中でも、これまでの語学教育の内実が必ずしも「言語能力」の向上に結びつくものだったわけではなく、実は記憶力と反射速度の反映である「言語処理能力の最適化」であったことが論じられたり、言語の教育や学習にAIを導入するには、学習者にとってAIを用いる必然性のあるタスクを組み込むことはもちろん、多くの教師に受け入れてもらえる教科書の編纂が必要とされることが指摘されりと、学習言語の種類を超えて共有可能な具体的課題の解決方法をさぐろうとする熱気を帯びていた。とくに、語学教育の目指すべき方向性を考えると、「ベルリンの壁」のアナロジー「教師の壁」が示されたことは、多くの教師にとって示唆に富むものだった。

写真1 沖縄大学

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彫刻家 石川雲蝶作品の観光資源としての展望に関する調査
国際日本学部教授 島川 崇

実施日: 2025年5月11日~13日
調査地: 新潟県 栄林寺他

 石川雲蝶は、幕末から明治初期かけて新潟県で活躍した彫刻家で、越後のミケランジェロと言われ、新潟県では知られた存在ではあるが、全国的にはまだ多くは知られていない。この石川雲蝶の謎めいた生涯と、現在に残る色鮮やかで躍動感溢れる木製彫刻を観光資源として知名度を上げていくためにはどのようにすればよいかを検討した。
石川雲蝶は得意とした木彫り作品だけでなく、石彫刻や絵画にもその才能をいかんなく発揮した。寺院の設計も手掛けたと言われている。現在も新潟県内には1,000点以上の作品が現存している。
 新潟市内には、佛興寺にその作品を見ることができる。ただ、ここは拝観者以外には広く知ってもらうというスタンスではないので、少しハードルが高い。
 三条市には、雲蝶の墓が今も残っている本成寺が観光素材としては価値がある。ここには、小さな寺院が並んでおり、その一つである静明院には、今にも飛び上がりそうな力強い亀の彫刻が残されている。
 魚沼市には、永林寺と西福寺開山堂が二大メッカと言える。西福寺開山堂は、迫力のある天井画が、越後のシスティーナ礼拝堂とも言われているそうだ。永林寺には、天女の彫刻が妖艶で目を引く。そして、永林寺と西福寺開山堂はそれぞれ弁成和尚、大龍和尚との人間的交流がなされており、そのエピソードも併せてガイディングすると効果的であると思われる。

謎めいた石川雲蝶

謎めいた石川雲蝶

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日本イギリス哲学会 第49回総会・研究大会への出席
国際日本学部教授 中村 隆文

実施日: 2025年3月28日~31日
調査地: 日本イギリス哲学会第49回総会・研究大会(神戸学院大学ポートアイランドキャンパス)

 2025年3月28日(木)~31日(日)にかけての4日間、3月29・30日に、神戸学院大学ポートアイランドで開始された、「日本イギリス哲学会 第49回総会・研究大会」に出席した。調査者の専門である18世紀の近代イギリス思想について、各種報告を聴くこと、そして、そして、二日目のシンポジウムⅡの司会を務めることが目的であった。
 初日の午前中は会長講演、午後はセッションとシンポジウムIが開催された。二日目の午前は個別報告、午後はシンポジウムⅡが開催された。シンポジウムIIでは、「近代」と宗教との関連を問い直すというものでそこで司会を務めたわけであるが、その内容は今大会内でもひときわ興味深かったので、それについて以下まとめてみた。
 第一報告は、内戦期イングランドの思想史というマクロな領域でグロティウスの法論をはじめとする近代自然法学の誕生について、世俗化というよりはむしろプロテスタント的革新性の観点からその意義が論じられうるということであった。第二報告は、1650年代のホッブズ政治哲学の再考の手がかりとして、トゥキュディデスのスタシスにおける「敬神と遵法意識の喪失」という論点に着目したものであった。第三報告は、現代における宗教概念の再考という問題提起というもので、「近代」においては実は宗教的世界は完全に捨象されたわけではなく、溶けこむように、さまざまなところに遍在するということを示すものであった。
 こうした近代・現代と、宗教的価値や世界観との関係性に関して、さまざまな質問等がフロアから提起され、活発な討論が交わされた。

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大阪大学箕面キャンパス・古川裕教授最終講義出席
外国語学部教授 鈴木 慶夏

実施日: 2025年3月9日~11日
調査地: 大阪大学箕面キャンパス(古川裕教授最終講義)

大阪大学箕面キャンパスにて、大阪外国語大学・大阪大学外国語学部で36年にわたり中国語の教育と研究に従事してきた古川裕教授の最終講義に出席した。当日は、よく見られる最終講義の形式とは異なり、古川先生のもとで博士論文を完成させた9人の門下生も順に登壇し、古川先生の研究活動の中国語研究史における位置付けとその後の発展動向について、門下生自身の研究の一端にもふれながら、斯界の流れを俯瞰した。最終講義の参加者は国内だけでなく海外の研究機関に勤務する者も多く、古川教授の足跡を記念した論文集(『古川裕教授榮退記念 中国語学・教育研究論文集』)の刊行も発表された。

論文集『古川裕教授榮退記念 中国語学・教育研究論文集』

論文集『古川裕教授榮退記念 中国語学・教育研究論文集』

調査研究報告

日本の大学における観光心理学/観光行動論の授業実践に関するワークショップ
国際日本学部教授 髙井 典子

実施日: 2025年3月7日~9日
調査地: 立命館大学大阪いばらきキャンパス

 2025年3月8日~9日、日本観光ホスピタリティ教育学会全国大会(於立命館大学大阪いばらきキャンパス)に出席し、ワークショップを主催した。本ワークショップは同学会から研究助成を受けた共同研究(「大学での「観光心理学/観光行動論」科目の現状―内容と教授方法」研究代表者:屋宜智恵美/琉球大学准教授、共同研究者:玉川大学/中村哲教授、同志社大学/西村幸子教授)の一環として企画・主催したものである。研究テーマは、日本の大学において開講されている「観光心理学/観光行動論」の授業内容の現状把握と整理、また教育者の教材や教育方法に関する意見を集約し、効果的な教育方法を提案することであった。
 本ワークショップ(「観光ホスピタリティ教育における大学での授業実践‐観光心理学/観光行動論を事例として」)では、バックグランドの異なる4名の「観光心理学/観光行動論」科目担当者(以下、ゲスト登壇者と表記。各登壇者のバックグランドは、観光経営論、マーケティング論、消費者行動論、社会心理学、環境心理学である)を招聘し「授業実践座談会」を実施、合計19名が参加した。
 ワークショップ前半では、ゲスト登壇者の授業実践報告を行った。各自のバックグラウンド、専門分野、実務経験、また所属機関の特性や学生の層といった背景が、授業で取り上げる理論、事例、授業の進め方に大きな影響を与えていることが明らかになった。後半では、フロアを交えてディスカッションを行ったが、事前学習、リアクションペーパー、理論と実践の接続についての議論が中心となった。

 筆者が最も重要な課題として受けとめたのは、理論をどう実践に繋げるかに関するアイディアとしてフロアから出た意見である。卒業生が在学中に学んだ知識や考え方を実務で活用できているのか、できているとすればどのように活かせているかについての情報を収集するべく、授業への招聘、卒業生へのアンケート調査の有用性が共有された。理論と実践を往還し架橋する学としての観光学にとって、実践の現場で働く卒業生による事後評価を授業の充実・改善にフィードバックする重要性は論を待たない。にもかかわらず、自身はそうした取り組みを十分に行ってこなかったと痛感した。卒業生からのポジティブな評価だけでなく、「不都合」な意見にも恐れず耳を傾け、授業設計・運用に生かしてはじめて、架橋する学としての観光学の標榜につながるだろう。国際日本学部1期生は今年(2026年)の春には社会人3年目になる。前期の授業からすぐに取り組んでいこうと考えた。
 一方、ワークショップの時間制約もあり、そもそも「観光心理学/観光行動論」とは何か、授業で取り上げるべきテーマは何かについての議論を深めることができなかった。この点については共同研究グループで継続して議論し、いずれ日本語での「観光心理学/観光行動論」の体系的なテキストの出版にも繋げていきたいと考えている。2026年1月末に行われる研究会では、この議論を深めていく予定である。

ワークショップの様子

調査研究報告

問題圏としてのパウル・クレー
国際日本学部教授 松本 和也

実施日: 2025年2月20日
調査地: 愛知県美術館

 今回の出張目的は、愛知県美術館で開催されている「「パウル・クレー展──創造をめぐる星座」を閲覧・調査し、現代美術の名作も多いコレクション展と併せて、日本に紹介された近現代美術の移入史について知見を深めることにあった。スイス・ベルン生まれのパウル・クレー(1879〜1940)は、都区内でも、アーティゾン美術館や東京国立近代美術館などで、その作品を閲覧することが可能ではある。ただし、今回の展覧会では、国内外のパウル・クレー作品にくわえて、20世紀前半の美術動向、同時代に活躍した芸術家たちとの交流関係などまでが、雑誌、図書、そして作品などを通じた広い視座から鳥瞰できるようになっており、それが最大の特徴であり、興味を惹かれる点であった。クレー自体についても、幅広い作風のバリエーションを実際に一望することが叶い、同時代の芸術家・作品群との関係性も含め、文字通り「星座」が描ける展覧会であった。さらには、それが今日、日本で展観される今日のクレー人気も含めて、日本の西洋美術との距離も示唆的なものであった。

パウル・クレー展

調査研究報告

宮崎高千穂神社における建国記念の日の催しについて
国際日本学部教授 島川 崇

実施日: 2025年2月9日~11日
調査地: 宮崎 高千穂神社

 世界中のどの国も自国の建国の日は国民挙げて祝うものだが、日本では全くそのような習慣が根付いていない。そのような中、国生みの神話の故郷である宮崎県高千穂町では、建国記念の日にパレードを実施しているということなので、それの視察を行った。
 建国記念の日に先立ち、2月10日に高千穂神社の後藤俊彦宮司にインタビューをした。後藤宮司はもともと神職の家庭ではなかったが、高千穂の出身で、福岡の大学を卒業して、政治家の秘書をしていく中で、神道への関心が生まれ、國學院大學に入りなおし、神道の勉強をしたのち、故郷の高千穂に戻ってきた。しかし、そのときは神社も荒れ果て、戦後のGHQの教育改革が浸透し、国旗の掲揚、国家の斉唱も行われていなかった。各部落に伝わっていた伝統的な神楽も、危険なものとして禁止され、一部の部落によって細々と伝わっていたにすぎなかった。それを後藤宮司が孤軍奮闘して少しずつ復活させてきたという経緯を持つ。
 後藤宮司は地域住民にも親しまれており、パレードでも多くの住民から声を掛けられていた。
 パレードは観光客に開放されているというよりも、地元の人たちで祝っている。地元高千穂高校の生徒から、神様4名、女神様4名が選出され、彼らを中心に街を練り歩く。そのパレードには地元の保育園の園児たちも小さなコスチュームを着てかわいらしく歩いていた。幼児のころから神話の世界に親しみ、高校生では代表がパレードで堂々と歩き、大人になったら各部落で神楽の演者になるといった世代を越えての伝承がうまく機能していた。

高千穂の夜神楽

高千穂の夜神楽

高千穂神社のパレードで白馬にまたがる後藤宮司

高千穂神社のパレードで白馬にまたがる後藤宮司

2025年度人文学研究所シンポジウム報告

「流動する都市、混在する言葉―上海を『書く』ということ」開催報告
共同研究グループ「日中関係史」

開催日: 2025年10月25日
会場: MMキャンパス5階 中ホール

司会: 孫安石(神奈川大学教授)

報告1 「新たな『地域性』を求めてー本書の構想から出版まで」賈海涛(神奈川大学外国人特任助教)
報告2 「方言文学の可能性をめぐって」鈴木将久(東京大学教授)
報告3 「文学『上海』のポリフォニーと王安憶の果たした役割」松村志乃(近畿大学准教授)
報告4 「『繁花』の文体と上海表象」橋本陽介(お茶の水女子大学准教授)
総合討論
写真1 シンポジウムのチラシと当日の会場の様子

写真1 シンポジウムのチラシと当日の会場の様子

 本シンポジウムは、2025年3月に刊行された賈海涛著『流動と混在の上海文学』(ひつじ書房)を起点とし、著者による執筆と出版を振り返り、中国現代文学と華語圏文学の第一線で活躍する研究者の鋭い視点から、流動し混在する上海と、そこで生まれる文学の可能性を立体的に浮かび上がらせることを目的に開催されたものであった。
 報告1の賈海涛氏は、出版記念の趣旨を述べ、「過去を繰り返さない」との信念のもと、出版を自己更新の転機と位置づけた。本書は上海の流動・混在を手がかりに、固定的な地域本質を退け、方言と言語思想から混在・流動する「地域性」を提案した。今後の課題として『繁花』研究の深化・中国語版増補、言語思想史の横断的検討と「上海ディアスポラ」への拡張、サイノフォン理論との対話を掲げ、謝意を表した。
 この報告に対して鈴木将久氏は、近代文学における「文学言語」の危機を視野に収めつつ、『流動と混在の上海文学』で提起した「叙言分離体」の意義と限界、ならびに方言を共同体再現や規範化の責務から解放して得られる「言語の自由」を基盤とする、新たな〈地域性〉の構想を肯定的に評価した。さらに、上海という多層都市を起点に、移動経験や「新工人文学」・ノンフィクションの可能性を含む今後の展望を示し、方言文学の地平を上海の外へ拡張するための課題と方向性を指摘した。
 次に松村志乃氏は、1990年代以降の上海文学を「反都市主義」を乗り越える新たな地方文学として捉え、方言の越境といった試みを通じて、多声的に生成される「文学テクストとしての上海」を描出した本書の意義を整理する。その上で王安憶を参照軸に、1980年代の試行錯誤から1990年代の文体確立までの軌跡を辿り、王暁明の「尋根」批判や「老上海」ブーム批判と響き合う視座から、『長恨歌』や『繁花』における時代認識を対照。結果として、上海文学は言語実験・地域配置・メディア環境の相互作用によってポリフォニックに立ち上がることが示される。
 橋本陽介氏は、1990年代の上海を描いた小説『繁花』(2013年刊行)を取り上げ、その文体と上海方言の特徴などについて紹介した。とくに、『繁花』の文体は、携帯電話で読む読者を想定した連載であったこと、上海方言で書かれた文体には抑揚と音が排除されていることが指摘された。
 総合討論では、上海語という方言を文学に表すことの難しさ、近年話題になっている「新東北文学」、『繁花』の日本語訳など中国で発信される最新の方言文学について活発な討論が行われた。

自著紹介

大学的神奈川ガイド こだわりの歩き方
平山昇 編

大学的神奈川ガイド こだわりの歩き方

著者: 平山昇 編
出版社: 昭和堂
出版日: 2024年10月15日
ページ数: 380頁

「この本を読めば、神奈川を見る目が変わる」
 本書のエッセンスは、この一言につきます。本書を執筆しているのは観光学、地理学、考古学、民俗学、歴史学といった様々な専門領域の研究者たちですが、本書を読む読者がこれまでとはひと味違った新鮮なまなざしで神奈川を見つめることができるようにしたいという思いを一人残らず共有しています。
 本書は、神奈川大学人文学研究所からの出版助成を得て、この大学に所属する研究者たちが結集して企画したものです。それ以外にも神奈川に縁もゆかりもあるという研究者たちがたくさん参加してくれました。とりわけ、横浜や神奈川の歴史に関する調査研究をパワフルに牽引している公益財団法人横浜市ふるさと歴史財団の研究者たちが多数参加していることは、本書の大きな特色となっています。
 全体の構成は「総論 本書を読み解く三つのヒント」「第Ⅰ部 海と港から見る神奈川(Ⅰ)現代編」「第Ⅱ部 海と港から見る神奈川(Ⅱ)歴史編」「第Ⅲ部 山と部屋から見る神奈川」「第Ⅳ部 道から見る神奈川」となっています。
 皆さま、是非お手に取ってご一読ください♪

自著紹介

戦前日本の「聖地」ツーリズム キリスト・日蓮・皇室
平山昇

戦前日本の「聖地」ツーリズム キリスト・日蓮・皇室

著者: 平山昇
出版社: NHK出版
出版日: 2025年5月25日
ページ数: 352頁

 「橿原に行かざれば人にあらず」――。100年前、今よりずっとアツい〝聖地巡礼〟ブームがあった。その恐るべき帰結とは……?
 いま「聖地巡礼」は宗教や漫画・アニメの「ご当地めぐり」を指し、個人の嗜好に基づく自由な行為だが、昭和戦前期は違った。同調しない人を非難し排除する、強い圧力を伴ったのである。 本書は、始めは教養主義エリートの西洋への憧れから生まれ、一般大衆へと広がった「聖地」めぐりのブームが、いかに発展し、社会の中の同調圧力を生み出すに至ったかを解明する試みである。
 実力派の歴史家が渾身の力を込めて描き出す、瞠目の日本〈感情〉近代史!(以上、出版社HPより転載)

自著紹介

錦箋 時代と表現
松本和也 編

錦箋 時代と表現

著者: 松本和也 編
出版社: パブリック・ブレイン
出版日: 2025年12月9日
ページ数: 160頁

本書は、日本近代文学研究のディシプリンを活かして、執筆者それぞれの問題関心からテーマを立て、研究対象に応じた調査・分析・考察をした議論を集積した論文集である。黙示は、以下の通りである。

  • 後藤隆基「角藤定憲再考――近代日本演劇成立期研究のために」
  • 吉田恵理「〈倦怠〉の風景――『白痴群』と中原中也」
  • 松本和也「火野葦平『陸軍』にみる“兵隊の精神”――等式の修辞学
  • 住友直子「埴谷雄高の初期創作活動――戦前の未公刊資料から」
  • 山田夏樹「藤子不二雄Ⓐ「少年時代」における「友情」――柏原兵三「長い道」、篠田正浩『少年時代』を通して」

このように、取り上げられたテーマは、演劇、詩、文学、漫画と多ジャンルにわたり、時代も明治期から戦後にまで及ぶ。こうした多彩な議論を貫くのは、それぞれのテーマに関わる「時代と表現」である。「時代」と「表現」は不可分のものであり、「時代」を通じて「表現」の意味が明らかになり、「表現」を掘り下げていけば「時代」がみえてくる。こうした本書に折り重ねて考察/成果によって、「日本近代」の急所を照らし出すことになれば幸いである。

自著紹介

多文化共生社会における情報発信を再考する
神奈川大学人文学研究所「言語景観と多文化共生」共同研究グループ

多文化共生社会における情報発信を再考する

著者: 神奈川大学人文学研究所「言語景観と多文化共生」共同研究グループ
出版社: くろしお出版
出版年月: 2025年3月25日
ページ数: 249頁

多文化共生とは,「多文化共生の推進に関する研究会報告書」(総務省2006年)にあるとおり,さまざまな立場にある人々が「互いの文化的な違いを認め合い,対等な関係を築こうとしながら,地域社会の構成員として共に生きていくこと」である。
この多文化共生社会において,どういう情報をどう発信するのがのぞましいか,本書では時には情報を受けとる立場にも身をおきながら,メンバーそれぞれの着眼点から,研究対象となる事象について現状を記述し,今後,改善や解決が求められる課題の提起にも取り組んだ。各章には写真も多数掲載されているが,どの執筆者も,特定の情報発信者を批判する意図はまったくない。本書で記述の対象にならなかった類似の事象にも参考価値を提供できるようのぞんでのことである。
実際に「どういう異なる立場の人どうしで(観光客・現地住民・現地語の理解度・習熟度の高低等),どういう状況のもとで(日常・非日常,平常時・災害時,対面・非対面等), どういう問題が生じ(提供情報の有効性,対人配慮上のイメージ等),どういう方法での解決が必要となり(使用言語や表記方法の選択,提供情報の内容策定等),その結果どう共生していくのか(利便性やイメージの向上,不平等の解消や不当評価の回避等)」というように,「多文化共生」に関わる諸要因の具体化を考える機会にできたと言えるかもしれない。
コロナ禍と同時にはじまった本共同研究の成果が,社会のさまざまなところで「多文化共生」や「情報発信」にかかわっている方々に少しでも役に立てるよう願っている。