ニューズレター

第3号(2023年9月1日発行)

講演会報告

櫻井良樹氏(麗澤大学)「宇都宮太郎関係文書の中国人陸軍留学生関係資料について」
共同研究グループ「日中関係史」

開催日:2023年2月4日(土)

会場:神奈川大学MMキャンパス 200032室(オンライン配信)

 櫻井良樹氏の報告は、国会図書館憲政資料室で公開(2022年6月) が始まった宇都宮太郎関係文書の概要について紹介するものであった。特に、(1)宇都宮の海外視察、(2)清国陸軍留学生招聘の経緯、(3)留学生受け入れの中止と応聘将校派遣縮小問題、(4)『支那陸軍学生教育史』編纂と振武義会・振武資金と宇都宮日記・文書・書簡との関連について詳細な説明がなされた。その他に、川上操六(成城学校長)〔学生監督上の諸注意〕明治31年、福建陸軍武備学堂景況、明治37年1月、〔朝鮮人留学生の学費及人名簿控〕明治31年12月、「清韓応聘武(文)官一覧表 明治四十二年十月上旬調 参謀本部 第二部」、 「同文学院在学中ノ支那学生ヲ陸軍士官学校ニ入学セシムル件ニ付監督周斌ニ注意事項」などの資料が保管されているという。

講演会報告

西本雅実氏(中国新聞元記者)「広島で被爆した中国人留学生について」
共同研究グループ「日中関係史」

開催日:2023年4月22日(土)

会場:神奈川大学MMキャンパス 200032室(オンライン配信)

 西本雅実氏の報告は、日中の歴史研究において埋もれた広島で被爆した中国人留学生の実態について紹介する内容であった。西本氏の指摘によれば、『広島原爆戦災誌』(広島市1971年発行)第1巻に広島で被爆した中国人は、「1945年の時点で14人が数えられる」、という記載があり、『生死の火』(広島大1975年発行)には、被爆した中国人「留学生は三七名を超えていた」とし、旧満州国出身で原爆死3人の名前を記載していることにふれ、現時点で合計17名の中国人留学生が確認できることが報告された。西本氏の調査などの影響もあり、広島大は2023年5月末、大学の「原爆死没者名簿」に未記載の中国人留学生の名前を追加することを決めるとともに、被爆して現在までに死没が分かった留学生を広島市の「死没者名簿」に搭載するよう市に申請した、という。

講演会報告

トーマス・マッコーリ氏「Composition under constraint: Gender-based approaches to Topic in Eikyū hyakushu」
共同研究グループ「国際日本研究グループ」

開催日:2023年5月24日(水)

会場:みなとみらいキャンパス 4020号室(オンライン配信)

 今回の講演ではデジタル・ヒューマニティーズ(デジタル人文学)のアプローチと和歌を結びつけました。トーマス・マッコーリ氏が永久百首(永久四年百首、作成年月日1117年1月24日)を紹介してから、その歌とジェンダーに焦点を当てました。主に、女性歌人が詠んだ歌と男性歌人が詠んだ歌の違いを把握するため、テキスト分析ソフトを使って、何百もの歌をテーマに沿って分析し、違いがあるかどうかを調べました。残念ながら、この分析では有意な差は見られませんでした。マッコーリ氏は、これは和歌が非常に定型的な方法で書かれ、男女を問わずすべての歌人が規範に従う傾向があるからだと考えています。

調査研究報告

山口県周防大島の起業家教育の実践事例
国際日本学部准教授 崔 瑛

 2023年2月11日から12日までの2日間、山口県南東部に位置する周防大島町の株式会社ジブンノオトを訪問した。周防大島は、1963年にハワイ州カウアイ島と姉妹縁組を締結しており、多くのハワイ移民を輩出したことで、「瀬戸内のハワイ」といわれる。また、周防大島には、「瀬戸内ジャムズガーデン」のような島ならではの魅力を活かした個性的な企業が複数存在する。
 今回のフィールドワークでは、周防大島出身者であり、Uターンしてから島内でフリーペーパーの発行や起業家教育プログラムの企画・実践に取り組んできた起業家大野圭司氏(株式会社ジブンノオト代表)をインタビューした。島で起業家教育をはじめたきっかけや今まで取り組んできた具体的な実践事例、会社の運営状況について把握した。大野氏は、今まで島内の中学校や県内の高等学校にて、総合的な学習の時間を使って、オリジナルの起業教育を長年実践してきており、教育を受けた生徒らの反応等を細かく把握し、資料として集めていた。大野氏とのインタビューでは、起業家教育後の効果検証の方法論について、議論することができた。
 また、大野氏と協力し、島内で様々な教育コースを作り、実践してきた3人の教育関係者らとも周防大島での起業留学の現状と今後の方向性について議論した。今回のフィールドワークでは、周防大島における起業家教育の現場、教育のための宿泊施設を視察し、島の教育実践者らと、お互いの考えを共有する時間を過ごすことができた。

訪問した教育研修施設

訪問した教育研修施設

調査研究報告

静岡県舞台芸術センター、静岡県立美術館調査研究報告
国際日本学部教授 松本 和也

 いわゆる日本の「近代化」は、年表で示されるような出来事によって一朝一夕に変化するばかりでなく、こと、文化領域においてはそれぞれのジャンルにおいて、個別具体的な西洋の文物の移入や、西洋で学んできた帰朝者を軸に、徐々に「近代化」が進んできた。
 今回の調査においては、演劇と絵画の領域において「近代化」が一段階進んだ明治末年の動向を検討するために、近代劇および日本画に関わる舞台作品・展覧会を調査した。
 3月11日には、静岡芸術劇場において、公益財団法人静岡県舞台芸術センターによる演劇作品『人形の家』(演出:宮城聰、作:ヘンリック・イプセン、訳:毛利三彌(論創社版))を観劇した。イプセン劇は、近代日本演劇史上、たいへん重要な作品であるばかりでなく、文学(者)をはじめ、他ジャンルにも大きな影響を与えたものである。当初は、いわゆる「演劇」としてではなく、まずは「読む戯曲」として上演され、それを観客が「近代劇」として受けとめていた。日本での初演(1911年)からすでに100年以上がたって、当初『人形の家』がもっていた革新性は、わかりにくくなった面もあるものの、今回の上演では「女性の自立」というテーマに限らず、人間が「自我」をもって生きることの困難と意義とが端正な上演によって示され、むしろ現代にも通じる『人形の家』の普遍性も表現されていたように映じた。
 3月12日には、静岡県立美術館において、企画展「近代の誘惑 日本画」を閲覧した。洋画移入後の「日本画」について、明治から昭和の日本画が展示されており、特に明治末年~大正期の作品を、同時期の日本の洋画を想定・比較しながら、西洋の影響をはかりながら検討した。

Fig1:静岡芸術劇場

Fig1:静岡芸術劇場

Fig2:静岡県立美術館

Fig2:静岡県立美術館

調査研究報告

ハワイでの言語景観に関する調査
国際日本学部教授 菊地 恵太

 2023年3月31日にハワイ州ホノルル市において調査を行った。空路にて同日午前中にダニエルKイノウエ空港に到着し、まずは同市最大のアラモアナショッピングセンターまで市バスで移動し、多言語による言語景観に関しての調査を進めた。空港やバス停などの公共交通機関では多言語表記が多いのだが、地元の人向けの商業施設の中ではどうであろうかという点に今回は着目し、多くの観光客が多いアラモアナショッピングセンターから徒歩でもほど近いドン・キホーテ カヘカ店へと足を延ばしてみた。
 なお、この店舗は2006年までダイエーだったが、経営不振でドン・キホーテとなった場所であり、筆者も2019年から2020年までの在外研究期間中、よく訪れていた。まず、写真1は2020年初頭に撮った入り口付近の写真である。この写真から見てわかるように2020年には入り口付近のハワイ土産のコーナーがあるが、Hawaiian-Souvenirと〇で囲ってある箇所に注目しても日本語表記は見当たらない。右上にBuyer's specialsとお店が勧めるお買い得商品のコーナーもあるが、すべて英語表記である。

ドン・キホーテカヘカ店入口の様子

写真1

 そのBuyer's specialsのサインがあった全く同じ場所に何が置いてあるかを今回は着目し、まず調査を始めた。写真2と3をご覧いただきたい。その場所にはなぜか「千万両」と漢字で書かれた小判と思われるものを抱えた猫のTシャツと「柴犬」と漢字で書かれた犬のTシャツが置いてあった。言うまでもなくこれらは日本語のわかる日系人向けの商品であり、日本人観光客向けではない。

「千万両」と漢字で書かれた小判と思われるものを抱えた猫のTシャツと「柴犬」と漢字で書かれた犬のTシャツ

写真2

「千万両」と漢字で書かれた小判と思われるものを抱えた猫のTシャツと英語表記の値札

写真3

 写真4をご覧いただきたい。こちらは、前回のHawaiian-Souvenirの表記がどのようになっているかを示したものだが、ハワイ土産と日本語併記になっている。またハワイ土産の定番のマカデミアナッツチョコレートに関してもハワイアンホーストチョコレートとカタカナで併記されていることに気が付いた。写真1と比べると右上の白い壁の部分であるが、その部分を暖色系の壁紙を施し、ドン・キホーテのマスコットであるドンペンを使い、にぎやかな雰囲気を出していた。

前回のHawaiian-Souvenirの表記

写真4

 一方、写真5と6を見ていただくとわかるようにキリン一番搾りとして国内では売られている現地の人向けのビールに関してはすべて英語表記であった。日本国内では、ビールの味や泡に関しての宣伝文句がよく聞かれる気がするが、こちらのPOP広告ではChoose fortuneというサインと共に春だからであろうか、桜やピンク系の提灯で商品を目立たせていた。こちらは言うまでもなく日本人観光客向けではなく、現地の人向けであることがこうした表記からもよくわかる。ちなみに現地の日系人の友人に聞くとICHIBANはNo.1を表すことはよく知られており、運のよいといった宣伝文句として使われたのだろう。

キリン一番搾りの陳列写真

写真5

商品を目立たせる桜の飾り

写真6

 日本語、英語が購買層によって巧みに使われている同店は非常に興味深く、今後日本人観光客が戻ってきた後にどれほど日本語と英語表記の使用が変わるのかをまた調査したい。

調査研究報告

コクヨ梅田ショールーム調査研究報告
人間科学部教授 衣笠 竜太

 2023年7月12日に大阪商工会議所主催の「未来のウェルネス実装ネットワーキング」に参加した。大阪商工会議所によれば、本ネットワーキングは、130社・300人以上が参加していた模様である。本ネットワーキングは2025年大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオン」への展示出展に向けた一連の取り組みの一つとして位置づけられ、ウェルネス関連プロダクトの実装シーンを探す企業と、空間の付加価値を高めるためにウエルネスの要素を取り込もうとする企業、さらにウェルネス関連プロダクトを取り入れてビジネスの拡張を目指す企業の3者が出会うイベントであった。私は現在、筋電センサーの開発を進めているが、親和性のありそうな脳波計を開発している企業、心の可視化に挑む企業、加速度センサーを用いて歩行分析を行っている企業の担当者と、想定している顧客とペイン、市場性、ビジネスモデル、マネタイズ、差別化、マーケティング戦略などについてディスカッションすることができた。