ニューズレター

第1号(2022年10月1日発行)

2022年度前期人文学研究所シンポジウム報告

「デザインミュージアムのヴィジョン」開催報告書
共同研究グループ「観光と美術」

開催日:2022年7月9日(土)13:30-17:00

会場:みなとみらいキャンパス米田吉盛記念講堂(オンライン同時配信)

 本シンポジウムは、デザイナー三宅一生の国立デザインミュージアム宣言から10年を経て、あらためてデザインミュージアムの現在と未来の可能性を考えることを趣旨とし、神奈川大学人文学研究所主催(共同研究グループ「観光と美術」企画)、デザイン史学研究会共同企画によりハイブリッド形式で開催された。
 第1部では、日本にいまだ存在しないデザインミュージアムについて、デザインやミュージアムに造詣が深い5名の登壇者がそれぞれの角度から論じ、その実現の道筋を、デザインミュージアム自体がもつ可能性とともに探った。
 深川雅文氏(インディペンデント・キュレーター/クリティック)は「デザインミュージアムのヴィジョン」をテーマに、ニューヨーク近代美術館における過去の重要なデザイン展を取り上げながら、プロダクトと展示の関係を紐解いた。人間の生のかたちとしてのデザインの表現性という観点から、デザインをミュージアムで展示することの重要性が指摘された。
 花井久穂氏(東京国立近代美術館主任研究員)は、自身が共同企画した「民藝の100年」展(東京国立近代美術館、2021年10月〜2022年2月)の成果に基づき、「民藝運動とミュージアムの思想」をテーマに発表した。流動的かつ多面的な柳宗悦らによる運動のダイナミズムは、建物外へも拡張するデザインミュージアムの可能性を想起させるものであった。
 太刀川英輔氏(JIDA理事長/NOSIGNER代表)は「デザインミュージアムの可能性」と題し、独自のデザイン理論である「進化思考」を軸に、デザインの本質とそのコレクションの創造的意義について発表した。デザインの進化を表した系統樹は、人々の願望、社会の文化、技術革新の歴史を浮き彫りにするものであり、ミュージアムの実践に関わる手法として注目された。
 横山いくこ氏(リード・キュレーター M+香港)は「M+香港:デザイン&建築コレクション形成の10年」をテーマに、アジア最先端の美術館として世界的な注目を集めるM+美術館のコレクション形成と開館の経緯を、豊富なデータとともに詳細に報告した。行政や市民との関係、ヴィジュアルカルチャーをキーワードとするコレクションの独自性、さらに、領域横断だけではなく地域の共通性を探求する美術館の展望が紹介された。
 暮沢剛巳氏(東京工科大学)は「ICOM職業倫理規定と日本のデザインミュージアム」と題し、ICOM(国際博物館会議)による博物館の新定義案を分析し、博物館の「役割」に加え「使命」を規定する新定義とデザインミュージアムの関係を論じた。問題解決というデザインが本来もつ役割に加わる使命の可能性が、国内外の事例とともに検討された。
 第2部では、登壇者たちによるパネルディスカッションが行われ、デザインミュージアム設立に向けた課題をめぐり、踏み込んだ議論が展開された。フロアやzoomからも積極的な質問や意見表明が相次ぎ、具体的行動の必要性、研究者とミュージアム関係者の連携の重要性等を確認して閉会の運びとなった。
 ハイブリッド形式の開催により、シンポジウムの国際性(横山氏は香港からオンライン登壇した)とシンポジウムへのアクセシビリティが飛躍的に向上し、非常に有意義なシンポジウムになったと考える。会場参加者数は30名、オンライン参加者数は46名(申込数)であり、本学教員・学生のほか、研究者、デザイン関係者、美術館関係者、独立行政法人勤務者等の幅広い参加があった。本シンポジウムが、デザインミュージアムの新たなヴィジョンを切り拓き、また、この問題に関心をもつ人々をつなぐ場となったことを願う。ご支援いただいた人文学研究所に深く感謝申し上げます。

企画・司会 角山朋子(国際日本学部国際文化交流学科准教授)

講演会報告

信岡朝子氏講演会「狩猟と男性性――北米におけるホワイト・ハンター神話と「存在の大いなる連鎖」」
共同研究グループ「<身体>とジェンダー」

開催日:2022年8月5日(金)

会場:神奈川大学みなとみらいキャンパス17017室(オンライン同時配信)

 最初に世紀転換期アメリカのセオドア・ローズベルト大統領と熊狩りという、テディベアの起源となったエピソードの内実やイメージの転換が紹介された後、大統領の伝記などに出てくる博物学者や自然保護主義者という人物像が、同時代(金ぴか時代から進歩の時代へ)の思想とのかかわりで分析された。病弱であった幼年期、「女々しい」とも揶揄された過去と、それゆえの男性性の発露の関係が示された後、二つの男性性、manlinessとmasculinityという概念装置での分析が試みられた。manlinessが自制心や抑制を基調とし、弱き存在を守るといった、ある種貴族主義的な姿勢であるのに対して、masculinityは身体的・性的側面が強い男性性で、攻撃的であったり、非白人種や下層階級が持つとされた野蛮さを白人男性が取り込んでいったりしたものであった。前者から後者への移行、さらには両者の関係性を見る必要が指摘された。

 そこには文明が過度に進み衰退した白人種が力を取り戻すという歴史観が見られるが、その背景として、ダーウィンの進化論も飲み込むような「存在の大いなる連鎖」という思想があった。そうした視点に沿って、狩猟といった野外活動を重視し、対外的には帝国主義的拡張を進めたシンボルとして、ローズベルト大統領は位置づけられるとまとめられた。また、manlinessからmasculinityへの移行によって、上位人種の「野蛮化」という矛盾が現れるが、それを解消するものとして白人においては男女差が強調され、男性が女性を庇護・管理するように、人間は動物を庇護・管理するという並行関係が強調された。「弱きを助け強きを挫く」といった価値観は、大統領が設立したBoone and Crockett Clubに見られるものであり、自然保護と人種主義的エリーティズム、家父長制的価値観の接合を、同時代思潮との関連で読み解いていくことの意義が論じられた。

 講演を受け、アメリカという国の歴史と狩猟のかかわりや、女性ハンターの問題、また現代の動物保護思想や大統領との時代を越えたつながりについて議論を行った。

司会 熊谷 謙介(国際日本学部国際文化交流学科教授)

講演会報告

「<続>日本の戦争美術」
国際日本学部教授 松本 和也

開催日:2022年8月23日(火)

会場:Zoom

「芸術(アート)と物語の交雑/発信力」班では、科研費「世界戦争とナショナル・アイデンティティ――アジア太平洋戦争期の他者体験と文学言説」研究会との共催で、「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA) 2020-2022 受賞記念展」(東京都現代美術館、2022年3月19日~6月19日)を終えた現代美術家の藤井光氏をお招きして、「〈続〉日本の戦争美術」と題してご講演頂いた。

 日本の帝国主義や植民地主義をリサーチした作品を多くつくってきた経験と、ポリティカルなテーマを制作するアーティストの置かれた厳しい環境を語ることで戦争画を扱うことの意味を共有するところから始まった講演において、藤井氏は美術史家による「戦争画」の捉え方を紹介して時系列的な意義を整理した上で、それが同時に、日本における美術の位置を集約的に象徴したものであることを示した。こうした前提を共有した上で、藤井氏は先の展示に即したリサーチや展示について、貴重な作品映像なども交えて自作改題を展開した。藤井は、リサーチしたアメリカ国立公文書館を踏まえ、戦後、戦争画を「プロパガンダか芸術」か捉えかねた占領軍の側から「戦争画」を捉えた映像インスタレーション《日本の戦争美術》を制作したこと、さらに、廃材を用いた原寸大の戦争画153点を制作・配列し、当の戦争画のキャプションを付した《日本の戦争画》を展示したことを紹介し、「見えない」戦争画を「見える」かたちに作品化したこと、それらのねらいを語った。最後に藤井氏は、展示終了後に入手したという、占領軍の「戦争画」理解に関わる資料を紹介しつつ、「戦争画」が今なお、日本国内/外の戦争に関わる問いを発し続けていることが語られた。

調査研究報告

6月調査研究報告
国際日本学部教授 尹 亭仁

 6月3日(金)~5日(日)の2泊3日、沖縄に出張した。那覇空港をはじめ、那覇市役所や沖縄県庁周辺、沖縄県立博物館・美術館、首里城公園、国際通りなどでの多言語表示を調べるのが目的であった。
 初日は那覇空港とモノレール駅を中心に調査を行なった。那覇空港はもちろんのこと、那覇空港からの重要な移動手段であるモノレールの車両の中は5言語(日本語・英語・簡体字中国語・繁体字中国語・韓国語)表示が徹底していた(図1)。

モノレールの中の多言語表示

図1 モノレールの中の多言語表示

図2 沖縄県立博物館・美術館

図2 沖縄県立博物館・美術館

 2日目は、期待を寄せながら沖縄県立博物館・美術館を訪れたが、多言語表示は「お手を触れないでください」の1か所のみで、日本語と英語の表記しかなかった(図2)。長崎の原爆資料館の場合、4言語表示が整っており、訪れた外国人、特に近隣の中国人や韓国人はそれぞれの母語で当時の悲惨さを理解することができたと思われる。日本語や英語だけだと情報処理にどうしても時間がかかるため、多くの人は見入って読むことができない。沖縄の文化に対する誇りや伝えたいメッセージを多言語表示をすることで、より効果がもたらせると思われる。午後は沖縄県庁および市役所周辺での多言語表示を調査した。街中の案内図は4言語、または5言語表示であった。
 3日目は「国際通り」と首里城周辺の言語景観を調べた。国際通りには多言語表示が多少見られたが(図3)、首里城では主に2言語表示であった。沖縄の観光を活性化するためには言語景観の改善と整備の余地があると思う。那覇空港の5言語表示では簡体字の中国語より繁体字の中国語が先であった(図4)。これは中国より台湾の人が多く訪れることの証拠であり、「近隣性」重視の表れだと考えられる。

モノレールの中の多言語表示

図3 国際通り

図2 沖縄県立博物館・美術館

図4 那覇空港の多言語表示

 今回の調査で、日本の言語景観、とりわけ公共表示においては、北海道から沖縄まで、多言語表示が整備されていると言えそうである。また、他の地域と違って沖縄では簡体字の中国語より繁体字の中国語が先に表示される傾向が見られた。