ニューズレター

第2号(2023年3月1日発行)

2022年度後期人文学研究所シンポジウム報告

「Literature Goes to School」開催報告
共同研究グループ「おとぎ話文化研究」

Literature Goes to School
教室の中の文学 ― 明治・大正期を中心に

開催日:2022年9月3日(土)14:00-16:30

会場:神奈川大学みなとみらいキャンパス 米田吉盛記念ホール(オンライン併用)

 本シンポジウムは、本共同研究グループのメンバーである外国語学部英語英文学科教授の鈴木宏枝氏と村井が、本学外国語学部の海外招聘研究者であるカナダのサイモン・フレイザー大学准教授のメレック・オータバシ氏の協力のもとで企画し、人文学研究所の主催により開催した。4人のパネリストが登壇し、明治・大正期の学校教育に文学がどのように取り入れられ、受け止められたのかを、世界文学、児童文学、教育学、図書館学など複数の視点から多角的に検討するとともに、教科書だけでなくそれ以外の図書、雑誌、口頭による語りを含む、子どもを対象とした複数のメディアを射程に入れて考察した。「教室の中の文学」という、現在議論の的となっている国語教育における文学の扱いの問題にもつながる重要なテーマを、近代の学校教育の始まりに立ち返り、世界とのつながりの中で捉え直す、初の試みといえる。講演は以下のとおりである。

  1. 「教材としての文学 ― 明治と大正の教育者が欧米に学んだこと」
    メレック・オータバシ(サイモン・フレイザー大学准教授、神奈川大学海外招聘研究者)
  2. 「博文館『少年文学』叢書の受容:『二重の顧客』にむけての戦略」
    柿本真代(京都華頂大学現代家政学部准教授)
  3. 「戦前期口演童話について ― 叢書『実演お話集』を手がかりに」
    宮路大朗(早稲田大学大学院教育学研究科修士課程)
  4. 「日本児童図書館の黎明期」
    加藤節子(東京子ども図書館司書)

 講演後のラウンドテーブル・ディスカッションには、講演者4名に加え、鈴木氏がディスカッサントとして参加し、村井が司会を務めた。ディスカッションでは4つの講演の中で提起された異なる分野からの論点を相互に関連づけることで、このテーマを今後さまざまな分野の研究者が国際的な視点から領域横断的に探求していくための道筋が示された。聴衆からの質問や提言も複数あり、終了時間を延長しての活発な議論の場となった。
 オンラインを併用した形式により、本テーマに関心を寄せる国内外の方々に広く参加いただける有意義なシンポジウムとなった。会場参加者は29名、オンライン参加者は30名(申込数)であり、本学教員・学生のほか、児童文学や教育学の研究者、学生、図書館司書、翻訳家、作家等、幅広い分野からの参加があった。ご支援いただいた人文学研究所のみなさまに深く感謝申しあげます。

司会 村井 まや子(外国語学部英語英文学科教授)

講演会報告

胡頴氏(神奈川大学、非常勤)「清末の五校特約成立過程の再検討」
共同研究グループ「日中関係史」

開催日:2022年12月3日(土)

会場:神奈川大学MMキャンパス・200032室(オンライン配信)

 胡頴氏の報告は、(1)20世紀の初頭に始まった日本の一高における清国留学生の受け入れの費用(教育費と寄宿舎の創設費など)を清国側が負担していたことを指摘し、(2)明治時代の官立学校の管轄機関である文部省が、この受入の過程に如何に動いたのかを明らかにし、(3)後に五校特約が成立する過程でこの一高の委託教育というモデルが踏襲された可能性を指摘する内容であった。
 この分析に使用された主な資料は、外務省外交史料館の留学生関係資料、東京大学文書館所蔵の文部省往復文書、そして、東京大学所蔵の狩野亨吉文書であった。とくに、狩野亨吉文書は、狩野が東京大学教養学部の前身である一高の校長を務めた1898年から1906年までの時期の文書を中心としたもので、一高の学業や寄宿寮のことはもちろん清国留学生の受け入れに関連する文書などが含まれており、今後さらなる資料検討が必要である。

講演会報告

小澤裕之氏講演会「マルシャーク『森は生きている』について」
共同研究グループ「各国近代文学の研究」

開催日:2022年12月26日(月)

会場:Zoom

 講演者の小澤裕之氏は、ロシア文学の研究者で、すでに研究書として『理知のむこう ダニイル・ハルムスの手法と詩学』(未知谷、2019)を刊行しているほか、やはりダニイル・ハルムスの『言語機械 ハルムス選集』(未知谷、2019)を翻訳している。

 今回の講演会は、小澤裕之氏が翻訳したサムイル・マルシャーク『森は生きている~12の月のおとぎ話~』が収められた『小学館世界J文学館』(小学館、2022)の刊行を記念して企画された。

 講演では、マルシャーク『森は生きている』を軸としながらも、作家紹介からスタートし、「1.『森は生きている』について」では、『森は生きている』の成立について、もとになった昔話や散文『12の月』などの紹介・解説があった。また、スラブの昔話について、その広がりも紹介され、それらを「昔話の話型」として整理・分析し、表と併せて提示された。
「2.翻訳について」では、翻訳上の課題(の1つ)であった、「まま娘は姉か妹か(ロシア語では同一の単語)」をどのように解決したかについて、「姉/妹」と捉えた場合のプロットを分析し、昔話一般に関わる知見(三浦佑之)も参照しながら、「妹」と解釈することにした根拠を説得的に述べられた。最後に、参加者からの質疑があり、個別の論点について知見が深められた。

講演会報告

マグダレナ・コウオジェイ氏講演会「Imperial Art Audiences」
共同研究グループ「国際日本研究」

開催日:2023年1月18日(水)

会場:神奈川大学みなとみらいキャンパス 4020室

 コウオジェイ氏のテーマは「Imperial Art Audiences」である。講演では、およそ1920年代から1940年代初頭までの、植民地時代の韓国と台湾の新聞における近代美術の宣伝、両植民地における日本美術のアートマーケット、そして展覧会の来場者の反応を中心に論じられた。コウオジェイ氏は、日本と植民地時代の韓国・台湾の相互に関連した芸術界の関係を調査しており、本講演で自身の研究の焦点について紹介した。

 当時、政府の主催する美術の公募展覧会(東京と植民地の両方)は、二つの特別な点があった。一つ目は近代美術の展示、二つ目は近代美術や美術館について人を教育するための重要な場となったことである。コウオジェイ氏の研究によると、植民地での美術展は大日本帝国の支援を受けて開催され、来場者に「大日本帝国」のイメージを定着させる狙いがあった。韓国や台湾のアーティストらの作品は、その地に定住していた日本のアーティストらの作品と共に展示された。美術展を通じて、韓国と台湾は「日本」の一部だという印象を与えた。この展覧会は、当時の大日本帝国を理解する上でも、重要なできごとであった。これらの点についての講演がなされ、質疑応答では、美術品の受容や現地の帝国理解について議論が行われた。

 コウオジェイ氏の研究は、近代日本美術と帝国主義の影響に対する理解を深めることを目的としている。帝国の芸術界を検証することによって、国家的な美術の研究に焦点を当てた美術史研究の欠点を示した。日本近代美術の発展を深く理解するため、日本美術研究に植民地の美術を含めて検討することが必要であるとの主張がなされた。

調査研究報告

10月調査研究報告
国際日本学部准教授 平山 昇

 2022年10月2日に熊本大学において久しぶりの対面形式でおこなわれた日本民俗学会第74回年会において、研究報告「都市祭礼の近代史」をおこなった。本報告は、グループ発表「都市祭礼の近現代―松ばやしからどんたくへ」(座長 後藤晴子)の一部として行ったものである。

 本報告では、近代日本の都市祭礼の変容過程について、博多松囃子を事例として検討した。現在の博多松囃子は博多どんたく開催中の5月 3~4日に福博(福岡・博多)のまちを練り歩く形となっており、三福神(福神流、恵比須流、大 黒流)と稚児流(東流、西流)から成る。本報告では、博多松囃子の近代史を新聞資料などを活用して明らかにすることで、一見すると古式ゆかしい「伝統」に見える博多松囃子が、実は軍隊(陸軍)、メディア、商工業界、皇室ナショナリズム といった近代の諸要素と絡みながら劇的に変容してきたことがみえてきた。

 この報告をふまえ、近代以外の時代の博多松囃子について報告した同じグループの他の報告者たち、フロアの参加者たちと活発な議論を行い、博多のみならず近現代における都市祭礼について考察するための手がかりを種々得ることができた。

日本民族学会第74回年回入口

調査研究報告

11月調査研究報告
国際日本学部教授 松本 和也

 昭和戦前期、特に大政翼賛会文化部が主導した地方文化論を軸として、「日本文化」のエッセンスが宿る「古層」としての地方の再発見‐再評価から、本土空襲の危機に瀕しての疎開の意味づけまで、それはすぐれて言説的な出来事(の推移)であった。昭和15年、沖縄を再発見しながらも、「沖縄方言論争」をへて次第に距離をとるようになった柳宗悦が次に眼を向けたのは「東北」であった。あれから、80年以上の時を経て、東北の現在はいかなる変化を遂げたのか。

 そうした視線の痕跡は、今なお残っているように思われるが、今や東北の最北端の青森県は、美術館のメッカであり、特に日本で現代美術を鑑賞するには外せないエリアとなっている。今回の調査では、こうした昭和戦前期/現在における「地方」の意味を考えながら、青森県の代表的美術館のうち3館を移動しながら鑑賞し、その文化的意義について検討した。

 旧吉井酒造煉瓦倉庫を田根剛の設計によって再創出した弘前れんが倉庫美術館では、「「もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?」奈良美智展弘前 2002-2006 ドキュメント展」が開催されており、メタ展覧会として地域で作り上げた展覧会のアーカイブ展示がなされていた。

 2021年にリニューアルオープンした八戸市美術館では「佐藤時啓—八戸マジックランタン—」が開催されており、街の記憶を風景に重ねたサイト/タイムスペシフィックな写真が展示された。

 十和田市現代美術館では、「名和晃平 生成する表皮」を閲覧し、「表皮」をモチーフとした文字通り世界レベルの現代美術をコンセプト/造形の双方から鑑賞することができた。

 いずれも、「地方/歴史」を美術を介して現代に接続する有意義な鑑賞体験であった。

弘前れんが倉庫美術館

弘前れんが倉庫美術館

八戸市美術館

八戸市美術館

十和田市美術館

十和田市美術館

調査研究報告

12月調査研究報告
国際日本学部准教授 山口 太郎

 2022年12月26日~28日にかけて、長崎市において都市景観に関する調査を実施した。

  1. 斜面住宅地である東山手・南山手地区をはじめとする定点観測地点での景観観察(27日実施)
  2. 長崎市立図書館での「長崎国際文化都市建設法」に関する新聞記事の検索(26・28日実施)

 1.について、世界遺産に登録されているグラバー園や大浦天主堂がある南山手地区には、商業空間が拡がっている。コロナ前に営業していた店舗のうち、グラバー園の入口より先にある複数の店舗でシャッターや看板が下ろされた状態であった。

 長崎は夜景が有名であり、代表的な眺望地点は稲佐山から長崎港をはさんで山手や出島のある地域を眺めるものである。これは遠景となる。それに対し、昼間に観光客が多く訪れるグラバー園からは、小河川の大浦川の対岸に位置する東山手地区の教育施設群や住宅群を眺めることができる。これは中景となる。グラバー園の近くに位置する洋館である南山手レストハウスから中景となる東山手地区の景観を10年以上観察してきたが、この数年で東山手地区の住宅の数が減ってきている。その一因に、上へ上へと階段が延びていたこの地区に尾根道につながる幅の広い道路が整備されたことがある。居住者の交通利便性が高まったと同時に、南山手からの眺望景観に変化が生じたことになる。

 また、いわゆる「まちなか」の平地では、高層の集合住宅やホテルの建設が目立った。現在長崎市では「立地適正化計画」に基づき、斜面住宅地から「まちなか」への居住地移動の推進が図られている。斜面住宅地である東山手の住宅が減り、平地である「まちなか」の集合住宅の増加という土地利用上の変化が、そのまま居住者の移動とは限らない。これを知るためには、例えば新規集合住宅居住者に前住地を聞くアンケートの実施などが必要となろう。

 2.について、今回調査したのは「長崎国際文化都市建設法」が国会で可決された1949年5月から7月の市民投票を経て、8月9日の公布までの期間である。「長崎日日新聞」5月12日付では、本法案が広島で出された「平和都市建設法案」に対し、「乗遅れないために陳情したもので、長崎の市の方は法案も出ていなかった」「法案は平和都市を二つ作ることは出来ないため文化都市の名で平和都市法案に準ずることになった」といった法案名の背景を知ることができた。詳細は、今後分析していく。

南山手レストハウスを視点場とした東山手地区の景観(2022年12月26日、山口撮影)

南山手レストハウスを視点場とした東山手地区の景観
(2022年12月26日、山口撮影)

第1号(2022年10月1日発行)

2022年度前期人文学研究所シンポジウム報告

「デザインミュージアムのヴィジョン」開催報告書
共同研究グループ「観光と美術」

開催日:2022年7月9日(土)13:30-17:00

会場:みなとみらいキャンパス米田吉盛記念講堂(オンライン同時配信)

 本シンポジウムは、デザイナー三宅一生の国立デザインミュージアム宣言から10年を経て、あらためてデザインミュージアムの現在と未来の可能性を考えることを趣旨とし、神奈川大学人文学研究所主催(共同研究グループ「観光と美術」企画)、デザイン史学研究会共同企画によりハイブリッド形式で開催された。
 第1部では、日本にいまだ存在しないデザインミュージアムについて、デザインやミュージアムに造詣が深い5名の登壇者がそれぞれの角度から論じ、その実現の道筋を、デザインミュージアム自体がもつ可能性とともに探った。
 深川雅文氏(インディペンデント・キュレーター/クリティック)は「デザインミュージアムのヴィジョン」をテーマに、ニューヨーク近代美術館における過去の重要なデザイン展を取り上げながら、プロダクトと展示の関係を紐解いた。人間の生のかたちとしてのデザインの表現性という観点から、デザインをミュージアムで展示することの重要性が指摘された。
 花井久穂氏(東京国立近代美術館主任研究員)は、自身が共同企画した「民藝の100年」展(東京国立近代美術館、2021年10月〜2022年2月)の成果に基づき、「民藝運動とミュージアムの思想」をテーマに発表した。流動的かつ多面的な柳宗悦らによる運動のダイナミズムは、建物外へも拡張するデザインミュージアムの可能性を想起させるものであった。
 太刀川英輔氏(JIDA理事長/NOSIGNER代表)は「デザインミュージアムの可能性」と題し、独自のデザイン理論である「進化思考」を軸に、デザインの本質とそのコレクションの創造的意義について発表した。デザインの進化を表した系統樹は、人々の願望、社会の文化、技術革新の歴史を浮き彫りにするものであり、ミュージアムの実践に関わる手法として注目された。
 横山いくこ氏(リード・キュレーター M+香港)は「M+香港:デザイン&建築コレクション形成の10年」をテーマに、アジア最先端の美術館として世界的な注目を集めるM+美術館のコレクション形成と開館の経緯を、豊富なデータとともに詳細に報告した。行政や市民との関係、ヴィジュアルカルチャーをキーワードとするコレクションの独自性、さらに、領域横断だけではなく地域の共通性を探求する美術館の展望が紹介された。
 暮沢剛巳氏(東京工科大学)は「ICOM職業倫理規定と日本のデザインミュージアム」と題し、ICOM(国際博物館会議)による博物館の新定義案を分析し、博物館の「役割」に加え「使命」を規定する新定義とデザインミュージアムの関係を論じた。問題解決というデザインが本来もつ役割に加わる使命の可能性が、国内外の事例とともに検討された。
 第2部では、登壇者たちによるパネルディスカッションが行われ、デザインミュージアム設立に向けた課題をめぐり、踏み込んだ議論が展開された。フロアやzoomからも積極的な質問や意見表明が相次ぎ、具体的行動の必要性、研究者とミュージアム関係者の連携の重要性等を確認して閉会の運びとなった。
 ハイブリッド形式の開催により、シンポジウムの国際性(横山氏は香港からオンライン登壇した)とシンポジウムへのアクセシビリティが飛躍的に向上し、非常に有意義なシンポジウムになったと考える。会場参加者数は30名、オンライン参加者数は46名(申込数)であり、本学教員・学生のほか、研究者、デザイン関係者、美術館関係者、独立行政法人勤務者等の幅広い参加があった。本シンポジウムが、デザインミュージアムの新たなヴィジョンを切り拓き、また、この問題に関心をもつ人々をつなぐ場となったことを願う。ご支援いただいた人文学研究所に深く感謝申し上げます。

企画・司会 角山朋子(国際日本学部国際文化交流学科准教授)

講演会報告

信岡朝子氏講演会「狩猟と男性性――北米におけるホワイト・ハンター神話と「存在の大いなる連鎖」」
共同研究グループ「<身体>とジェンダー」

開催日:2022年8月5日(金)

会場:神奈川大学みなとみらいキャンパス17017室(オンライン同時配信)

 最初に世紀転換期アメリカのセオドア・ローズベルト大統領と熊狩りという、テディベアの起源となったエピソードの内実やイメージの転換が紹介された後、大統領の伝記などに出てくる博物学者や自然保護主義者という人物像が、同時代(金ぴか時代から進歩の時代へ)の思想とのかかわりで分析された。病弱であった幼年期、「女々しい」とも揶揄された過去と、それゆえの男性性の発露の関係が示された後、二つの男性性、manlinessとmasculinityという概念装置での分析が試みられた。manlinessが自制心や抑制を基調とし、弱き存在を守るといった、ある種貴族主義的な姿勢であるのに対して、masculinityは身体的・性的側面が強い男性性で、攻撃的であったり、非白人種や下層階級が持つとされた野蛮さを白人男性が取り込んでいったりしたものであった。前者から後者への移行、さらには両者の関係性を見る必要が指摘された。

 そこには文明が過度に進み衰退した白人種が力を取り戻すという歴史観が見られるが、その背景として、ダーウィンの進化論も飲み込むような「存在の大いなる連鎖」という思想があった。そうした視点に沿って、狩猟といった野外活動を重視し、対外的には帝国主義的拡張を進めたシンボルとして、ローズベルト大統領は位置づけられるとまとめられた。また、manlinessからmasculinityへの移行によって、上位人種の「野蛮化」という矛盾が現れるが、それを解消するものとして白人においては男女差が強調され、男性が女性を庇護・管理するように、人間は動物を庇護・管理するという並行関係が強調された。「弱きを助け強きを挫く」といった価値観は、大統領が設立したBoone and Crockett Clubに見られるものであり、自然保護と人種主義的エリーティズム、家父長制的価値観の接合を、同時代思潮との関連で読み解いていくことの意義が論じられた。

 講演を受け、アメリカという国の歴史と狩猟のかかわりや、女性ハンターの問題、また現代の動物保護思想や大統領との時代を越えたつながりについて議論を行った。

司会 熊谷 謙介(国際日本学部国際文化交流学科教授)

講演会報告

「<続>日本の戦争美術」
国際日本学部教授 松本 和也

開催日:2022年8月23日(火)

会場:Zoom

「芸術(アート)と物語の交雑/発信力」班では、科研費「世界戦争とナショナル・アイデンティティ――アジア太平洋戦争期の他者体験と文学言説」研究会との共催で、「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA) 2020-2022 受賞記念展」(東京都現代美術館、2022年3月19日~6月19日)を終えた現代美術家の藤井光氏をお招きして、「〈続〉日本の戦争美術」と題してご講演頂いた。

 日本の帝国主義や植民地主義をリサーチした作品を多くつくってきた経験と、ポリティカルなテーマを制作するアーティストの置かれた厳しい環境を語ることで戦争画を扱うことの意味を共有するところから始まった講演において、藤井氏は美術史家による「戦争画」の捉え方を紹介して時系列的な意義を整理した上で、それが同時に、日本における美術の位置を集約的に象徴したものであることを示した。こうした前提を共有した上で、藤井氏は先の展示に即したリサーチや展示について、貴重な作品映像なども交えて自作改題を展開した。藤井は、リサーチしたアメリカ国立公文書館を踏まえ、戦後、戦争画を「プロパガンダか芸術」か捉えかねた占領軍の側から「戦争画」を捉えた映像インスタレーション《日本の戦争美術》を制作したこと、さらに、廃材を用いた原寸大の戦争画153点を制作・配列し、当の戦争画のキャプションを付した《日本の戦争画》を展示したことを紹介し、「見えない」戦争画を「見える」かたちに作品化したこと、それらのねらいを語った。最後に藤井氏は、展示終了後に入手したという、占領軍の「戦争画」理解に関わる資料を紹介しつつ、「戦争画」が今なお、日本国内/外の戦争に関わる問いを発し続けていることが語られた。

調査研究報告

6月調査研究報告
国際日本学部教授 尹 亭仁

 6月3日(金)~5日(日)の2泊3日、沖縄に出張した。那覇空港をはじめ、那覇市役所や沖縄県庁周辺、沖縄県立博物館・美術館、首里城公園、国際通りなどでの多言語表示を調べるのが目的であった。
 初日は那覇空港とモノレール駅を中心に調査を行なった。那覇空港はもちろんのこと、那覇空港からの重要な移動手段であるモノレールの車両の中は5言語(日本語・英語・簡体字中国語・繁体字中国語・韓国語)表示が徹底していた(図1)。

モノレールの中の多言語表示

図1 モノレールの中の多言語表示

図2 沖縄県立博物館・美術館

図2 沖縄県立博物館・美術館

 2日目は、期待を寄せながら沖縄県立博物館・美術館を訪れたが、多言語表示は「お手を触れないでください」の1か所のみで、日本語と英語の表記しかなかった(図2)。長崎の原爆資料館の場合、4言語表示が整っており、訪れた外国人、特に近隣の中国人や韓国人はそれぞれの母語で当時の悲惨さを理解することができたと思われる。日本語や英語だけだと情報処理にどうしても時間がかかるため、多くの人は見入って読むことができない。沖縄の文化に対する誇りや伝えたいメッセージを多言語表示をすることで、より効果がもたらせると思われる。午後は沖縄県庁および市役所周辺での多言語表示を調査した。街中の案内図は4言語、または5言語表示であった。
 3日目は「国際通り」と首里城周辺の言語景観を調べた。国際通りには多言語表示が多少見られたが(図3)、首里城では主に2言語表示であった。沖縄の観光を活性化するためには言語景観の改善と整備の余地があると思う。那覇空港の5言語表示では簡体字の中国語より繁体字の中国語が先であった(図4)。これは中国より台湾の人が多く訪れることの証拠であり、「近隣性」重視の表れだと考えられる。

モノレールの中の多言語表示

図3 国際通り

図2 沖縄県立博物館・美術館

図4 那覇空港の多言語表示

 今回の調査で、日本の言語景観、とりわけ公共表示においては、北海道から沖縄まで、多言語表示が整備されていると言えそうである。また、他の地域と違って沖縄では簡体字の中国語より繁体字の中国語が先に表示される傾向が見られた。