PLUSi Vol.21
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土屋恵 今回の横浜トリエンナーレのフィールドワークで最もインパクトを受けた作品は、アメリカの作家、ジョシュ・クライン(ある。スーツを着ている中年の男性や女性が、透明なゴミ袋の中に粗大ごみのように入れられて棄てられている。これは弁護士や会計士、銀行員、秘書などのホワイトカラー労働者が、AIなどの技術革新や社会の変化で20年後にはなくなってしまうかもしれない、大量失業への不安を表現している。しかし、ゴミ袋に入れられている人の表情はとても穏やかであり、少し思いとは違う仕事から解放されほっとしているようにも見えた。廣田葉奈 私は今回の横浜トリエンナーレの作品のなかで富山妙子氏の作品が印象深かった。彼女の作品からは争いがもたらす悲壮感と憎しみ、思想や言論の自由を手に入れることの難しさが伝わってくる。その中でも《民衆の力I》という光州事件を描いた作品が特に印象に残っている。この作品で民衆が持っている韓国語のスローガンは、日本語に直訳すると「共に死んで共に生きよう」という意味になるのだが、なぜ死が生より先なのかを考察することが興味深かった。作品を自由に解釈できるところが美術作品を見ることの面白さなのではないかなとも思った。柳沢慶介 私は、エクスパー・エクサー(Xperxr)の《機械じかけのおもちゃの猫》という作品に注目した。おもJosh ne)の「失業」シリーズでli no22ちゃの猫は、ロンドンや香港などで行ったパフォーマンス(ザ・ピッツ、ザザーク・プレイハウス)の小道具として使われていたと知り、おもちゃの猫を道具にするといった発想は頭に浮かばなかったので、衝撃を受けた。機械の猫は集合体恐怖症であるエクスパーが本番前に緊張をほぐす役割を果たしていた。本物の猫と同様に、機械の猫にも癒す力があることに気付いたとき、パフォーマンスの小道具に使われる理由が納得できる作品だと感じた。寺﨑大悟私が特に印象に残ったアーティストは、柳沢さんと同じく、エクスパーエクサ―(XperXr)である。彼は香港で活動するアーティストで、ミュージシャンとしての一面も持っている。彼の作品は挑戦的な作品が多く、荒れていた幼少期を感じさせる《カウンターテーブルトップ》という作品や風刺漫画のTシャツを使った《火炎瓶》という作品が攻撃性を表していると感じた。また、今回の展示で《無題》という作品が2つ展示されていたのだが、そのどちらも赤黒く、まるで血を彷彿とさせる作品であった。 彼の作品からあふれ出る世界への反抗心をぜひ多くの人に感じてもらいたい。池田亜美香最近ヴィーガンとベジタリアンの違いに興味を持つ出来事があり、人間をひとつの動物とみているような   . K. . アネタ・グシェコフスカ(Aneta GRZESZYKOWSKA)の《MAMA》が私の印象に残った。弱肉強食の社会で当たり前のように食べられている動物だが、それを人間に当てはめているようなそんな作品であった。グシェコフスカの作品全体には人間や犬が登場するが、それらは決して普通の姿で見ることはできず、当たり前が当たり前ではないというメッセージを私は彼女の作品から読み取った。今の日常を当たり前だと思わず、小さなことにも感謝の気持ちを持つことを大切にしたいと改めてこの作品を通して感じた。伊東美秋 私が1番印象に残った作品はユア・ブラザーズ・フィルムメイキング・グループ(你哥影視社)によってつくられた《宿舎》という作品である。これは台湾の工場で働くベトナム人女性たちが寮に立てこもってストライキを起こした時の部屋を再現した作品である。この部屋の様子を見ると、互いのベッドの距離がとても近いためプライベートの空間がなく、女性たちはこの苦しく過酷な状況の中、逞しく生きていたことが感じられる。またこの作品は自身がその場にいるかのような臨場感があり、当時の部屋を再現したことでよりダイレクトに世界観を感じることができた。 今回の横浜トリエンナーレのアーティスティック・ディレクターが中国人であり、テーマは魯迅が書いた『野草』ということもあり、中国と非常に縁のある点から、私たち中国語学科としても非常に良い経験になった。今私たちが生きているこの時代は非常に殺伐としている。戦争・紛争のニュース、経済格差、政治93Alius vol.3/掲載記事エクスパー・エクサー(Xper.xr)《無題 1991/2021》(撮影:寺﨑大悟))《長年の勤務に感謝(ジョアン/弁護士)》ジョシュ・クライン《総仕上げ(トム/管理職)》(撮影:土屋恵)エクスパー・エクサー(Xper.xr)《機械じかけのおもちゃの猫 2002》(撮影:柳沢慶介)アネタ・グシェコフスカ 《MAMA no.22》(撮影:池田亜美香)

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