PLUSi Vol.21
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第3部 論文(13)130 「遊ばせる」という言葉がある。これは、動詞の 「遊ぶ」を使役の助動詞である「せる」で活用した言葉である。「遊ばせる」という言葉はその構成から鑑みるに、「子どもを遊ばせる」といった意味での使用が自然であるはずだ。しかし、「遊ばせる」はこれらの意味とは異なる形で使用されることがしばしばある。 本稿では、「遊ばせる」という言葉について、どのような形で意味合いに変化が訪れたのか、具体的にいつ頃変化が訪れたのか調査し、考察する。以 下、2章では「遊ばせる」が持っている複数の意味について資料を用いて述べ、3章では本稿の調査対象や選定基準を記し、4章では実際に「遊ばせる」の使われる傾向の実態を調査し分析を行い、5章で「遊ばせる」の意味の変遷について考察を行い、6章では本稿のまとめと今後の課題について記したい。なお、本稿では調査にあたって、検索コーパス「ひまわり」の「青空文庫」と「国会会議録」、国立国会研究所の中納言コーパスの「日本語歴史コーパス(CHJ)」等を資料として使用した。 本章では、まず「遊ばせる」が持っている意味を複数示したい。先述した通り、「遊ばせる」は動詞の「遊ぶ」を使役の助動詞の「せる」で活用した言葉である。 『日本国語大辞典』に記されている「遊ぶ」の意味は以下の通りである。遊ぶ〔一〕 興のおもむくままに行動して楽しむ。神事に伴う舞楽を行なうことがもとといわれるが、広く楽しむ行動をいうようになり、現代では、多く子どもが遊戯する、おとなが運動、行楽、遊興などすることをいう。〔二〕 仕事、勉強、働きなど、期待される生産的効果を果していない状態にある。このように、「遊ぶ」という言葉はふたつの意味を持っている。〔一〕の意味は私たちが最も想像しやすい「遊ぶ」のイメージではないだろうか。時代にかかわらず、人が何らかの享楽に取り組むという意味合いを持っている。〔二〕の意味の「遊ぶ」は、「息子は(仕事をせずに)遊んでばかりいる」といったように使われる。特に現在では、人が仕事や勉強に取り組まないという使い方をされることが多く感じられる。 では、これと比較して「遊ばせる」はどういった意味を持っているのだろうか。以下は『日本国語大辞典』に記された「遊ばせる」の意味である。遊ばせる〔一〕 金や道具などを使わないでおく。〔二〕 (心などを)楽しませる。このように、「遊ばせる」には「子どもを遊ばせる」といった意味以外のものが存在している。〔一〕の意味は「遊ぶ」の〔二〕の意味に使役が加わったものであるが、それぞれ対象には異なる特色が認められる。例えば、「遊ぶ」対象が息子の場合、「息子が遊ぶ」も「息子を遊ばせる」も自然である。一方、 「遊ぶ」対象が土地である場合、「土地を遊ばせる」1.はじめに2.「遊ばせる」の意味国際日本学部 日本文化学科 4年藪下 明日美【佳作】「遊ばせる」の変遷について

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