PLUSi Vol.21
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1 敬語の「遊ばせる」は本筋に関連性がないため除いている129第3部 論文(14)にはある程度聞き馴染みがあるが、「土地が遊ぶ」はあまり使われない印象がある。 また、『日本国語大辞典』に掲載されている以外にも、「遊ばせる」は独自に発展しているのではないかと考える。「毛先を遊ばせる」という表現を聞いたことがあるだろうか。「毛先に自由な動きを与える」といった意味で用いられる表現である。ここでの「遊ぶ」は本来の「遊ぶ」とは異なった意味で使用されているのがわかる。 このように、「遊ぶ」と「遊ばせる」の間には、使役の有無だけではない違いが発生している。では、具体的にはどのような経緯で、「遊ばせる」の意味に変化が生まれたのだろうか。 本章では、実際の調査結果に触れる前に、本稿の調査に用いたそれぞれの資料について、選定方法やその基準について述べたい。 まずは、検索方法、資料を用いた目的について、それぞれの資料別で記す。 検索コーパス「ひまわり」による「青空文庫」の検索については、「遊ばせ」のみの検索で充分な文献数があったため、そちらに絞って調査を行った。「青空文庫」は著作権の期限経過した文学作品が収められている為、最も新しい文献でも70年以上前の作品になる。70年以上前の資料を参考にする目的で調査に用いた。一方、「国会会議録」では「遊ばせる」「遊ばす」の活用した形を含め全ての形で検索を行った。「国会会議録」は1947年から2012年の間に行われた国会における討論の記録である。近年における用例が豊富である他、正式な場で発表される丁寧な口語体での用例については調べることが可能になっている。一方で、政治について話し合う場であるが故に、使用されやすい言葉に偏りが生まれており、検索結果が大きく左右されてしまうという懸念点もある。 中納言コーパス「日本語歴史コーパス(CHJJ)」では、平安時代から1945年頃までの様々なジャンルの文献について調査することが可能である。中納言では語彙素読みと品詞指定を用いて、「遊ばせる」「遊ばす」をそれぞれの活用を含んだ形で別々に検索を行った。 次に、「遊ばせる」という言葉において、使用されている意味を区分する基準について示したい。本稿では、「遊ばせる」について現在3つの意味で使用されていると考える。それが以下の(Ⅰ)~(Ⅲ)である。1(Ⅰ) 遊戯、運動、行楽、遊興などをさせる(Ⅱ) 無駄にさせる(Ⅲ) 自由自在にさせる また、これらの「遊ばせる」の変化について更に詳しく追求するために、本稿では「遊ばせる」対象に着眼点を置きたい。これについて、対象の意志の有無で様々な変化が発生しているのではないかと考える。 本稿では、「遊ばせる」の意味の変化をこれら(Ⅰ) (Ⅱ)(Ⅲ)の意味に分け、さらに対象となるものが意志を持つ場合を(ⅡA)、対象となるものが意志を持たない場合を(ⅡB)とする。以上の計4つの枠にカテゴライズを行い、その意味の変化について調査したいと考える。以下の①~④は実際の文献 から引用した例である。それぞれ①が(Ⅰ)、②が (ⅡA)、③が(ⅡB)、④が(Ⅲ)の形で「遊ばせ る」が用いられている。①その傍では子守が子供を遊ばせてゐる。に対しては、空閑地税を課すること。(青空文庫 田楽豆腐 森鴎外 1912年)②その優秀な施設と人材を遊ばせているということは、─  (国会会議録 衆議院本会議 岡本隆一 1969年7月12日)③さらに、いたずらに土地を遊ばせておくもの(国会会議録 衆議院本会議 西宮弘 1964年4月3日)3.本稿の調査対象、選定基準

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