PLUSi Vol.21
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2 小数点第二位で四捨五入を行った第3部 論文(15)1284-1.青空文庫の「遊ばせる」 青空文庫において「遊ばせる」が使用されていた件数は370件であった。それらで使用されている「遊ばせる」の傾向は以下の表1の通りである。【表1】 青空文庫における「遊ばせる」の意味ごとの使用回数と割合④なぜ小さな子供になんか、手綱を持たせておいて、自分は大人の癖に、手を遊ばせてゆくのだらう、と良寛さんは、親切な牛飼を見て思つた。なお、様々な文献を調査するにあたっては、中には以下の⑤⑥のような例も見られた。⑤政府は、みすみす貴重な人員、器材を遊ばしているということになるのであります。退化しつつある。(青空文庫 風俗時評 豊島与志雄 1967年)⑤の文では「遊ばせる」対象が複数あり、(ⅡA)と (ⅡB)の2つの意味で「遊ばせる」が用いられてい る。また、⑥の「遊ばせる」は後ろに名詞を繋げることで、それ自体が名詞化されている。これら⑤⑥のような例や、その他判断が難しいものは、(その 他)と一括りにすることで分類を行った。(青空文庫 良寛物語 手毬と鉢の子 新美南吉 1941年)ⅠⅡAⅡBⅢその他合計384100.0件数(件)235割合(%)261.2359.1(国会会議録 衆議院本会議 野原正勝 1950年4月27日)⑥所謂遊ばせ言葉は、上流婦人の間でも急激に225.76717.5256.5このように、敬語の「遊ばせ」を除くと、凡そ過半数以上が(Ⅰ)の意味で使用されていることがわかる。その一方で、(Ⅱ)や(Ⅲ)の意味での使用もそ れぞれ決して少なくはなく、「青空文庫」の時代では3つの意味がしっかりと確立されていることがわかる。 次の⑦~⑪は、実際の資料から引用した例である。⑦が(Ⅰ)、⑧が(ⅡA)、⑨が(ⅡB)、⑩と⑪が (Ⅲ)の意味で「遊ばせる」を使用している。⑦めがねをかけた品のいい細君が、海軍服の男の子と小さい女の子を遊ばせている。いると─青空文庫内の実際の傾向から見て、(Ⅰ)や(Ⅱ)での使用に年代の偏りは見られなかった。その一方 で、(ⅡA)と(ⅡB)の間には少し違いが見られた。(ⅡA)は1920年代頃から偏りなく使用されているが、(ⅡB)は1950年代から1960年代にかけて急に使用される頻度があがっていた。また、(Ⅲ)の意味での使用は、1930~40年以降に増えていった印象である。⑪のように「たましいを遊ばせる」や 「心を遊ばせる」といった、意志があるが形のないものを使役させる一種の比喩のような表現での使用(青空文庫 どんぐり 寺田寅彦 1947年)⑧よく働く仏蘭西の婦女の気質を見せたような主婦は決して娘を遊ばせては置かなかった。何時来て見ても娘は店を手伝っていた。(青空文庫 新生 島崎藤村 1919年)⑨「稲田を麦作に使えないかと思ったんだ、稲を苅ったあとの田を、半年も遊ばせておくのはもったいないんでね」(青空文庫 艶書 山本周五郎 1954年)⑩いい天気だと思って、安心して舟を遊ばせて(青空文庫 大菩薩峠 中里介山 1921年)⑪のぼってゆく尺八の音に乗せて、自分のたましいをも縹渺と宇宙に遊ばせるつもりで聴いていればよい  (青空文庫 梅里先生行状記 吉川英治 1941年)4.「遊ばせる」の使用の実態

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